Interview 009

2023/3/25

株式会社イノカ
取締役COO
竹内 四季 さん
TAKEUCHI Shiki
株式会社イノカ
取締役COO
竹内 四季さん
TAKEICHI Shiki
これからの時代に求められるのは、
自分で問いを立てる力
テクノロジーは手段であり、
目的として
解決すべきディープイシューを理解することが重要
岡本

本日のMIGAKUのインタビューのお相手は、株式会社イノカの竹内さんにお越しいただきました。
竹内さんこんにちは。今日はよろしくお願いします。

竹内

よろしくお願い致します。

岡本

まずはじめに、この記事を読んでいただいているのは学校の先生が一番多いのですが、先生方に対して簡単に自己紹介をしていただけるとありがたいです。

竹内

はい、わかりました。
私は株式会社イノカというベンチャー企業で取締役COOという立場で事業開発を担当しております、竹内四季と申します。

株式会社イノカという会社は、いわゆるスタートアップ企業で、2019年に立ち上がったばかりの会社です。我々は、水槽の中に自然に近い環境、海の環境を、生態系ごと再現するというようなことをやっています。
これを我々は「環境移送」というキーワードで名付けておりまして、どういう意味かというと、そのままですね、自然界の環境を切り取って、生態系ごと陸上に、水槽の中に移送するという、それぐらい高精度な自然界に近い環境再現ということをやっています。

どのようにしてこれを実現しているかというと、AIとかIoTといったテクノロジーと、あとは生き物の飼育のノウハウにものすごく特化している、そういう職人的な技術というものを掛け合わせることによって、水族館や研究機関でもこれまでなかなかできてこなかったような生態系の再現ということを、水槽の中で人工的にやっておりまして、代表的なものは、水族館でも置いているものがほとんどレプリカだと言われているサンゴ礁の生態系、これを我々の東京の虎ノ門のオフィスの中に、たくさんサンゴ礁の生態系の水槽を再現しています。このように、いろいろなところにサンゴ礁の生態系を作れるという技術が、我々の環境移送技術です。

その中で、そういった技術を使って、世の中をどのように変えていけるかであったり、どのようにしてマネダイズしながら更に大きなことをできるようにしていこうかというビジネス戦略だったりを考えているのが、私の主な仕事です。

岡本

ありがとうございます。
実際に水槽を拝見すると本当に綺麗で、人間が作ることができない生態系の神秘というものは、見ていて吸い込まれるようだなあといつも思っているのですが、このイノカさんの環境移送技術を使って、どのようなことをしようとされているのか、今取り組まれていることをもう少し詳しくお伺いしてもよろしいでしょうか。

 

竹内

はい。
内部では、この環境移送技術で自然界を水槽の中にどんどん再現していって、いろいろな海の問題がある生態系を再現していくということをやっているのですが、これを事業として、会社として、どのようにしているかというと、例えば、今まで海の中では、実験をしたり、データを取ったりすることがなかなか難しかったりするようなことがたくさんありまして、分かりやすいところで言うと、海水浴に行くときに日焼け止めクリームなどを肌に塗った際、その影響がどのくらい出てしまうのかとか、こういったところは、実はこれまでほとんど科学的な検証がされていなかったところなんです。

海の中でこういうことを実験することはなかなか難しかったり、かといって研究室のようなところでやろうとしても、サンゴという非常に繊細な生き物を実験のサンプルとして扱うのが難しかったりしたんですね。

そんな中、我々は、ラボで生態系を再現することができることで、いろいろな海の生き物に対する影響がどのくらいあるかという話だったり、ヘドロが溜まって汚くなってしまった海に対して、どのような物質を入れたら改善できるかといったこと研究したりと、これまでなかなかできなかったような研究のあり方を提示して事業を行っています。

その傍らで、教育活動にも力を入れておりまして、目の前でサンゴ礁の生態系を見せながら、子どもたちにできる限り楽しみながら参加してもらう、環境エデュテインメントプログラム、エデュケーションとエンターテインメントを掛け合わせたものですが、「サンゴ礁ラボ」というものを小学生向けに展開していまして、2年間で6000人近くの子どもたちが参加してくれています。

このように、目の前の室内空間にサンゴ礁の生態系をはじめとする、いろいろな生態系を再現できるということを強みにした、いろいろな高価値を作っていくということを会社として取り組んでいます。

自然は我々の生活をさせえている自然資本。
25%もの海洋生物が住むサンゴ礁を観光問題だけでなく、
経済の観点からもアップデートしていきたい。

岡本

今、伺っていて、考えさせられるなあと思ったのが、たくさんの子どもたちが海水浴に行く中、保護者の方も含めて、おそらく多くの方が、深く考えずにサンオイルを塗ったり、日焼け止めを塗ったりして、そのまま海水に浸かるわけですよね。要は、多くの人が、自分たちが当たり前に使ったものが、そこに生息している生き物にどう影響を与えるかを考えずに海水浴を楽しんでいることになってしまうのですが、実際に、現時点で、それらが生態系にどの程度の影響を与えているかという研究結果が出始めているのでしょうか。

竹内

そうですね。間違いなく「ある」と言っても、差し支えないかなと。もちろん一概に全てがというわけではないですが、しっかりと配慮した原材料を使っていないと、やはり影響が大きいということは明らかになってきています。

岡本

そうですよね。
今、世の風潮として、SDGsというキーワードが出てきて、学校でもそれに対して取り組んでいるケースが非常に増えてきていると思うんですよね。マイクロプラスチックとか更に小さいプラスチックが人体にどのような影響を与えるかとか、海洋生物にもどのような影響があるのかということと同じぐらい、今お話されていたような、人間が海に入る前につけていたものがどのような影響を及ぼすかということとか、今まで考えてこなかったものが少しでも見えてくると、今まで常識だったものが変わっていくということがすごく増えてくるんだろうなと。そして当然ですが、生物への影響が小さい新しい材料への置き換えなど、ビジネスチャンスになってくることも大きいのではないかなと思って伺っていました。

そもそも竹内さんは、イノカで取り組まれている領域について、実際にいつ頃から興味を持って動き始められたのですか?

竹内

はい。大変いいご質問でね、私はこの、サンゴ礁や海という領域には、大人になるまでなかなか興味を持っていなかったんですね。

鹿児島県出身で、祖父が漁師だったりしたこともあって、海に接する機会が多かったものの、特に海の生き物がものすごく好きというわけでもなく、私自身、大学では経済学部で、世の中の社会課題をどうやってビジネス的に解決していくかという、ソーシャルビジネスという領域をずっと研究していました。
その中で、イノカの立ち上げメンバーであるCEOの髙倉が、このイノカという会社を作った段階で、初めてこういう領域があるんだということを知りました。

私自身は、創業後1年弱くらいのタイミングでジョインしたんですけれども、その時にいろいろとこのサンゴ礁の現状、例えば、海の中では、25%の海洋生物がサンゴ礁に住んでいて、まさに海の中の大都市のインフラのような役割を果たしていて、海の熱帯雨林とでもいうべきもので、生物多様性の宝庫であり、人類にとってもものすごく経済価値があるという一方で、サンゴ礁が20年後には大部分が死滅してしまうかもしれないと、そういった非常に危機的な状況にあるということも知りました。

今、グローバルな経済が自然をどのようにして資本主義に取り込んでいこうかと、自然というものは我々の生活を支えている資本である自然資本だという概念が、数年前から出てきていまして、私も環境問題というだけの認識だけではなくて経済の観点でも、ここに対して世の中の枠組みをちゃんとアップデートしていくような、新しく自然に優しい資本主義を作っていくような動きができるのは非常におもしろいんじゃないかなと。
イノカがやっている、海の中をどんどん見える化していく技術は、そういったところで非常に相性がいいのではないかということで非常に興味を持ちまして、今はその部分で最先端の旗振りをしているかなという自覚がありますね。

岡本

なるほど。一般的に考えると、大学を出て、例えば、組織としていわゆる日本のトラディショナルカンパニーと呼ばれるところに入っていく選択肢もおありになったと思うんですよね。でも竹内さんは、社会をイノベーティブに変えていくという想いをお持ちになって、ベンチャースタートアップにジョインされていらっしゃいます。その双方の選択肢を天秤にかけることはありませんでしたか?

竹内

そうですね。安定的なところを求めて大手企業に行く友人もやはり多いのですが、一方で、私は、社会的インパクトをどうやって出していくか、特に福祉とか環境問題とか、そういうお金が回らなそうなところに対して新しい枠組みを作っていったりすることは、すごく新しい分野なので、切り開いていかなければいけない領域だと思ったんです。

その中でも、特にスタートアップ企業というのは、技術や研究に優位性があるところから出てきていて、うちのサンゴ礁を再現できる環境移送というものも、代表の高倉が持っていたAIの技術と、うちのチーフ・アクアリウム・オフィサー、最高アクアリウム責任者という役員がいて、彼のものすごくコアな飼育技術から成り立っているようなところで、これをいかに世の中に対して、今の世の中をアップデートしていく上で活用していくかということは、やはり新しい超チャレンジだったのでやりたいということと、その形態としては今のベンチャー企業にジョインしてやるというのが合っていたのかなと思います。

岡本

よく言われていることですが、この失われた30年と言われる日本の経済の中で、皆が同じように学校教育でのテストの1点を競い合うという大学受験までのプロセスがあって、それが終わったとたん、自分で自由に考えてやりたいことを見つけなさい、自分で問題を発見して解決をしてきなさいとなるわけで、そのタイミングでフェーズがガラッとチェンジされていくわけですよね。

その中で、ソーシャルインパクトを考えながら動いていきたいという、僕もすごく同じ想いでいるので、竹内さんとお話をしていても勝手に同じ香り感じながら同志だと思って、今日もお話を伺っているんですね。

とはいいながらも、スタートアップに行くと色々と不安定だよなとか、一般的に言われるいい高校、いい大学に行って、有名な会社に入ることが安定なんだという、もちろんそれを否定するわけではなく、肯定するわけでもなく、今までなんとなくモデル的なレールが敷かれている教育の現場というものがあって、でもそうではない道が、どんどん増えてきているのは、すごく嬉しいなと思います。

我々は、海洋生物を取り巻く現状をまず「知る」ことが大切。
そして、教科書的に色々学べてしまう時代だからこそ、フィールドワークなどに出かけて実際に見て体験することはすごく重要だと思っています。

岡本

さて、この流れから、もう一度お話を本筋の方に戻らせていただきたいなと思うのですが、最初のお話されていたサンゴ礁ですが、実際に本物を見たことがないよという人たちが圧倒的だと思うんですね。やはり南側、沖縄とかに行かないと見られない。
でも、海の生物の4分の1ぐらいは、サンゴ礁を住処にしていて、死滅が進んでしまうと、そこに住む海洋生物は、4分の1どころか、そこからの影響で半数近くいなくなってしまうと言われているわけですよね。
そうなると、種間関係において、連動して生物が死滅していってしまうもしくは減少していってしまうというところで、竹内さんは、ソーシャルイノベーションを起こしながら、世の中に良い環境を提供していきたいというだと思うんです。

この領域って、ものすごく大切だということはよくわかるのですが、具体的に、僕たちは何をしていけば海洋生物を守れるのか、おそらくこれを読まれている方も気になると思うんですが、僕たちは、具体的にどんなことをしていけばいいのでしょうか。

竹内

まず重要なのが、最初に前提として挙げておきたいことで言うと、「知る」ことで、実際に海の中で何が起きているのか、そしてそれによってどういう生物がどれぐらい影響を受けた結果、人間自体がどれぐらい影響を受けてしまうのか、こういうところは、昨今、非常に注目されてきた領域ではあるのですが、やはりまだまだ認知度が低い。

海なんて関係ないでしょう?と思っている人もいるのですが、実は人類にとっても非常に重要で、食料とか安全保障上とか、いろいろな観点で重要視されているんですね。こういったところをまずしっかりと認識して、いずれ、自分の次世代にも返ってきてしまうんだという観点でまず自然を見つめる、そういうことができる知識をしっかり入れていくことが重要だと思っています。

その上で、できるアクションとしては、これまではゴミを拾いに行こうとか、そういう話がどうしても多かったのですが、もっともっと科学的にこの領域を突き詰めていく必要があるかなと思っています。だから、これからの世代の方々には、海洋研究という領域はこれからまだまだ主流になってくるポテンシャルがあると思っているので、このような領域に興味を持ってもらいたいなと思います。

あと1生活者、消費者の観点から言うと、今、企業も、企業努力で頑張って、先進性のある企業は、自然に対して優しい製品をどんどん開発していたりしているので、そういう製品をしっかり選べるように、例えば、少しコストが高くてもそういう製品を選ぶとか、それ自体が環境貢献につながっていきますし、対応していない企業は、環境にやさしくない自分たちの商品は選ばれないという状態に直面して初めてきちんと環境に優しい製品を作っていかなければいけないということに気づくので、やはり消費者からの観点としても、しっかり環境に対応している商品を選択していくことで環境を良くして、今の経済に参加していくということが重要なのかなと思います。

岡本

そうですね。
「知る」ということは、すごく大切だなということは、いろいろな方々とお話をしていても感じることで、特にこのMIGAKUでも、なぜこのインタビューのような取り組みをしているかというと、まず専門の領域の方々からその領域の現状の話を伺って、まず知っていただくことが大切だと思っているからなんですね。

例えば、海の専門家で、大深度有人潜水調査船「しんかい6500」の現役パイロットでもいらっしゃる大西拓磨さんも、どの海の底に潜っても人工物が既にあって、それは人間が作ったものが分解できないまま海にずっと残っているものなので、だからこそプラスチックゴミというものを解決していこうっていうのも出てきましたし、先ほど竹内さんがお話されていたように、海に興味を持ってもらう、有名なものとしてMSC(海洋管理協議会)の海のエコラベルなんかもそうだと思うのですが、そういった認証マークがあるものをまず自分たちから買ってみようっていうところに繋がっていければいいっていうことなんですね。

ちなみに、学校でも生物について学ぶ機会は非常に多くて、そうすると、一般的に種間関係の多様性の重要度があると思うのですが、生物多様性は理解したと、竹内さんのように専門家の方からお話を聞いたり、大学の研究者の方から大切なんだよという話を聞いたりしたとしても、学校でその先のネクストアクションとして何をしていくかということがなかなか難しい。家庭では、先ほどのMSCの海のエコラベルなどを多く使って、買っていこうかなど、自分の中で少しずつできる工夫があると思うのですが、学校において、海の生物多様性について取り組んでいける方法はどんなことがあるでしょうか。

竹内

そうですね。やはりその学びは、今はSDGsに関する事柄として教科書的に色々学べてしまう時代だからこそ、フィールドワークとか、実際に生でどのようなことが起きているのかということを見に行って体験することはすごく重要だと思っています。
例えば、文字面として、サンゴが死んでしまっているのということを知るのと、沖縄にシュノーケリングなどをしてみて、10年前にこの辺はこうだったという写真と実際に見比べて、サンゴがものすごく白骨化してしまった状態が増えているのを見ると、やはり原体験として学びというか、得られるものは変わってくると思うんですね。

こういったところで、学校も、例えば修学旅行や社会科見学といった機会を通じて、子どもたちにしっかりと生々しい体験を提供してあげるということは、積極的に持つといいなと思いますし、実際に沖縄まで行くのは結構コストかかってしまったりするからこそ、我々のように、ラボの中にもサンゴ礁の生態系を再現しているという、水族館でもなかなか見られないようなことをやっているベンチャー企業と一緒に、子どもたち向けに、今世の中で起きている課題に関して伝えていくことはぜひやっていきたいことかなと思います。

岡本

そうですよね。
ちなみに、イノカさんの持っている今の教育プログラムでは、サンゴ礁を知って海の生態系の循環を知る、その水槽の中で、サンゴ礁を育てて大きくして、後々は海に戻すなどということも考えてらっしゃるんでしょうか。

竹内

そうですね。長期的にはやはりこういった保全活動の中で、サンゴを育てて海に戻すということは重要なのですが、なぜすぐにやらないかというと、今、海の環境がどんどん悪化してしまっているので、今の環境に、例えば陸で育てたサンゴを戻しても、結局死んでしまうんですよね。これはあまり本質的な解決ではなくてですね。良いことをした気になって終わってしまうということも懸念としてはありまして。

本当にサンゴのことを考えたときに、何をしなければならないかというと、例えば、気候変動はもうなかなか止めがたいものなので、気候変動に耐えられるサンゴ品種、例えば、遺伝子組み替えをして遺伝子改良していくとか、ゲノム編集みたいなところで人為的に進化を早めてあげるみたいなことも必要かもしれませんし、あとはラボだからこそ、サンゴの健康状態がちょっと悪くなってしまった時に、薬として作用するような物質を発見していくとか、そういうサンゴ保全に対して直接、本質的に結びつくようなことをどんどん検証していかない限りは、ただ海に戻せばいいかというとそういうわけでもないという点で、難しいところですね。

岡本

なるほど。海の保全に関してつながってくると思うのですが、実はMIGAKUの初回インタビューをさせていただいたのが、国立環境研究所の江守正多さん、気候変動・地球温暖化リスク評価のスペシャリストで、その方も、地球環境問題は、どうしても地球環境全体でマクロで見ていかないと、いくらミクロ的な取り組みを手当たり次第に対症療法にやっていっても本質的な問題解決にはならないと。だからどうすればよいかというと、国家レベルとか世界規模でどう変えていくかというムーブメントを作っていかなければいけないとおっしゃっていて、今、竹内さんのお話を伺っていても、同じような観点でつながっているなと改めて思いました。

いずれにせよ、イノカさんが取り組まれているプログラムを、学校の子どもたちにはたくさん触れてもらいたいなという思いは僕もあるので、ぜひこれを機に、イノカさんのプログラムを入れてみたいという学校が少しでも増えてくることがあるといいなと思いました。

竹内

そうですね。ぜひ!

新しいテクノロジーがどんどん出てきても、結局突き当たるのは、
これを通じて何を解決したいか、世の中の課題としっかり結びつけられるか。
学校教育の中でも、ディープイシューにたくさん触れられる機会を設けた上で、
子どもたちがどう解決するかという問いを自由に立てる機会が
非常に重要になってくると思います。

岡本

実際に竹内さんのお話を伺っていると、もっと専門的な方向に深めていきたいなという思いもあるのですが、一方で、竹内さんが活動されている中で、これからの子どもたちに求められている力をどのように感じているかも大変興味深いです。

今、伺ってきたような海の環境の問題は、実際はもっと以前からさかのぼって始まっていたことで、そこから加速して、今は地球温暖化とか、地球規模での環境変化というかものすごい勢いで起こっていて、ソーシャル的なインパクト、しかも負の方のインパクトが起こり始めてしまっていると思うんですね。
特に日本の経済も含めて考えると、今の子どもたちが社会に出た時、例えばこの4月から小学1年生になる子どもたちが社会に出るのは、6年後に小学校を卒業して、高校卒業までのさらに6年、大学を卒業するのが4年後と考えると16年後、2040年になるわけですよね。その時はもっとこの世の中が、良くなるか悪くなるか分からないとしても変わっているのは確かだと思うんです。

そんな先が見えない時代の中で、これからを生きる子どもたちがどのように生きていく力を育むのか、タイムリーなものでいくとGPTがGPT-4にアップデートされて、今まで人間が行っていたコーディングの技術がほぼ置き換えられるレベルに、おそらくあと1年後には変わっていると思うんです。つまり、既存の専門技術者や専門企業などにとってはマイナスに触れるようなインパクトがどんどん起こり始めている。

日本国内で考えると、人口縮小や高齢化の問題、産業構造に大きなパラダイムシフトが始まってくるとなってきた場合、学校の教育の現場において、子どもたちに今から求められる力はもちろん、それらを育む先生や指導者側にも求められる力がものすごく変わっていくと思っています。

この辺りについて、大学を出て、スタートアップに入り、今、産業界・経済界の方々とも一緒に話しながら活動されている竹内さんならではの視点で感じられていることを伺いたいと思いますが、いかがでしょうか。

竹内

そうですね。学校教育をはじめとしてこれからの時代に求められてくるのは、自分で問いを立てられる力かなと。よく聞くテーマだと思うのですが、それこそAIの台頭によって、これまで知識として人間が頭の中に保存しないといけなかったようなことは、もう基本的には聞けばすぐに出てくるような情報として陳腐化してしまうものになっているので、むしろそれらの情報をどうやって使っていくかというのは、自分で問いを立てる課題を設定するからこそできる生き方かなと思うんですね。

我々が大学時代を過ごした2010年代というのは、テクノロジーがわっと広がって、第4次AI革命だともてはやされた時代で、みんな特にやりたいこともないけれど、AIエンジニアになると儲かるという風潮で、すごく人気になったんですよね。AIベンチャーもたくさん出てきたのですが、結局突き当たるのは、これを通じて何を解決したいんだっけという、世の中の課題認識としっかり結びつけられるかどうか、こちらの方がやはり大事なんです。

言い換えると、テクノロジーは手段であって、目的として何を解決するかというのは、世界が、人類が、抱えている外の課題、ディープイシューと呼んだりしますが、そういうところに対しての理解がすごく重要です。 ですから、学校教育の中でも、今、世界には実はこんな課題があるんだというディープイシューにたくさん触れられるような機会を設けた上で、子どもたちにそれをどうやって解決するかという問いを自由に立ててもらう機会が非常に重要になってくるだろうなと思いますね。

岡本

お話をお伺いしていて、手段と目的というキーワードが出ましたが、本当にその通りで、これはおかしな話なのですが、学問の国語・数学・理科・社会・英語・その他の教科も本来は手段だったはずなのが、大半の教育の現場では、これを数値化させて点数を取ることが目的になっていってしまっていて、先ほども、1点でも多く点数をとって、いい高校、いい大学に行けば、いい会社に入ってっていうような敷かれたレールについてお話をさせていただきましたが、それ自体がどんどん崩壊しつつあるわけですよね。
今からは、保護者の方もしくは学校の先生方が生きてきた社会とは異なる社会が出てくるわけで、その社会の変化に対して、日本の教育の現場の中でのやるべきことが今までずっと変わらずに、30年40年続いているということ自体が、もう成り立たなくなっているなと思います。

ディープイシューという言葉も出てきましたが、このディープイシューというものがないと、ソリューションという目的を解決するものがセットできないので、そこに見合う手段としての知識とか教養とかテクノロジーというのが成り立つということだなと思いながら伺っておりまして、そういう意味では、この領域を、探求学習として、子どもたちが自分でセットすることができる教科もしくは授業時間が、今ようやく作れるようになってきたわけなんです。問題になってくるのは、これを生かすも殺すも、プレッシャーを感じると思うのですが学校の先生方次第で、先生方がおもしろくないよねと言ってしまったりとか、答えがあるような誘導をしてしまうと全く意味のないものになってしまう。

答えがある方向に誘導していくではなく、失敗してもいいわけですよね、これを許容できる指導者側の力量が問われているんだなと、僕はいつも思うのですが、このあたりについて、竹内さんがご自身の学生時代を振り返るといかがでしたか?

竹内

私自身は、いわゆる進学校の中高一貫の男子校出身で、そこから東京大学の経済学部という、まさに受験の詰め込み教育のど真ん中やってきた者なのですが、今、岡本さんがおっしゃっていた通りで、ペーパー試験で高い点数が取れる力があっても、例えば、僕は英語がすごく得意科目だったのですが、じゃあこれでいろいろな人と英語でバリバリコミュニケーションか取れるかというと、別にそこは関係ないんですよね。結局、受験で得られる知識は、やはりそれはそれとして大事というか、後々生きてくることではあるので、そこは勉強しなければいけないかなとは思いつつ、やはりもっと高校時代にいろいろな課題に触れたりする機会が僕自身はあまりなかったなと思っています。

僕は身内にたまたま障害を持っている方がいたので、障害者雇用をどう解決できるだろうかを身近に考える中で、福祉ソーシャルビジネスという形で、自分の軸を作っていたというのはあるのですが、同級生は、特に何も考えずに大手企業に行ったりする人も多いので、難しいところではありますが、せっかく探究学習の時間が設けられているからには、それぞれに興味ある領域というものをもっと引き出しつつ、それを世の中の課題に結びつけて導いてあげられるように、すごく難しいブリッジをする力が必要かなと思います。

先生方は、今、世の中で、どういうことが人類の抱える課題なのか、そう言うと少し大げさに聞こえるかもしれませんが、そのようなところの知識を持った上で、子どもたちが、これをやりたいという得意領域や興味関心を絶対に殺さないように、じゃああなたの得意領域だったら、この領域でこういうアプローチができるかもしれないよという、かなりの想像力を働かせながら、そこをつなぎながら導いてあげる力が必要になってくるだろうなと思いますね。

岡本

そうですね。もともと答えがないものに対して取り組むわけなので、成功・失敗という意味では、失敗はつきものであって、それを自分の専門領域として学びたいからこの大学に行くんだという考え方が、本来の大学への進学だと思っているので、竹内さんのお話にはすごく共感しました。

では、最後に、竹内さんからのメッセージとしてお伺いしたいのですが、今、この世の中のパラダイムシフトが起こり始めていて、いわゆる世界規模でのディープイシュー、日本だけではなく世界全体で連動していく問題に直面しなければいけない中、今からの子どもたちに、もしくはそれをサポートする先生方に何かメッセージを送っていただけるとありがたく思います。

竹内

はい、そうですね。今までこんな話をしてきたのですが、うちの「環境移送」というテーマ自体が、もともと、環境問題解決するためにこうしていこうぜというよりは、アクアリウムが好きで、趣味でこれを追求していった結果、結果的に環境問題の解決につながるかもしれないという、そういう順番ではあるんです。なので、実際、先ほどちらっとお話しましたが、好きなことを追求できるような環境や、そういう指導の仕方・導き方というのがすごく重要なってくるかなと思います。

親もそうですし、先生も、これを突き詰めたところで将来何になるの?みたいな話が出てくると思うのですが、そこでしか発揮できない創造性や、自分の好きという原動力をベースにどんどん突き詰めていった結果、結果的にそれが何か世の中の役に立てばいいという考え方もできると思います。

これだけ先行きが読めない世界の中では、これを学んでおけば安心みたいなものはないと思っていて、僕の同級生もAIを必死に学んでいましたけれども、それがもう、AIが自分でプログラミングができるようになってしまって、AIのエンジニアとかも一生安泰だと思っていたのにみたいなところがあると思うんですね。だから、結局は自分が何を好きで突き詰められるか、何か見つけられるような過ごし方をしてもらえればいいかなと思いますし、学校はいろいろな人がそれぞれ自分の好きなものを追求しながら、それをどんどん情報交換できる貴重な場だと思いますので、ぜひ友達同士で、あいつはあんなことをやっているから俺はこんなことやってみようとか、それぞれの強みを生かしながら、多様な価値観とか、好きなことを開花させられる場所になっていくといいんだろうなと思います。

岡本

いや、本当に、深いキーワードだなあと思って伺っていましたが、例えば、ChatGPTの登場で、エンジニアも今まではソフトウェアが強いと言われていたものが、一気に希望者の方向性が変わるだろうなと感じましたよね。

実物を持っている企業価値がまた高くなってきたりとか、その実物とソフトウェアとハードウェアの融合体をどう作っていくかとか、そのポイントを作れる企業が強くなってくるなど、その時によって、テクノロジーの進化というか、登場によって、変わってくるんだなあということをすごく感じたのですが、特にイノカさんが取り組まれている生物という領域は人間がゼロから生み出すことはできない領域だと思うので、そこを使って、そこにテクノロジーを加えて、あと当然ですが、人間のイマジネーション、クリエイティブ領域も入れることによって、社会のインパクトを深めていくことが、方向線なんだなということを感じました。

竹内

そうですね。

岡本

今回をきっかけの一つとして、学校の教育の現場で、サンゴ礁はもちろんそこからの海洋生物の循環を知る、実際にそれらに触れる機会を持って学んでいただきたいなと思いました。本日は、お忙しい中、本当にありがとうございました。

竹内

ありがとうございました。

Today’s Expert

竹内 四季 TAKEUCHI Shiki
株式会社イノカ 取締役 COO
1994年生まれ、鹿児島県出身。東京大学経済学部卒業。人材系メガベンチャーを経て、2020年2月イノカにジョインし、COOとして事業開発・営業・アライアンス戦略等のビジネスサイド全般を管掌。
「環境保全 × 経済合理性」等のテーマで登壇実績多数。

Interviewer

岡本 弘毅 OKAMOTO Koki

教育のソリューションカンパニー、株式会社エデュソル 代表取締役。
特定非営利活動法人子ども大学水戸 理事長。
一般社団法人ロボッチャ協会 代表理事。
世界に羽ばたく「倭僑」の育成のため、従来の教育だけではなく、STEAM教育やSDG’s教育(ESD)、グローバル教育を中心に、3歳から社会人までの幅広い年齢にあわせた、様々な教育プログラムを提供している。また、子どものための大学を設立し、累計10,000人を超える学びの場を提供している。 2020年、株式会社電通、株式会社TBSホールディングスとともに、JVとして株式会社スコップを設立、実践的想像力を育むオンラインスクールSCHOP SCHOOLを開校。