Interview 013
2024/2/28
国立天文台
平松 正顕 さん
HIRAMATSU Masaaki
国立天文台
平松 正顕さん
HIRAMATSU Masaaki
何かを突き詰めてみたい気持ちを大事にしてほしい
今回のインタビューには、国立天文台より平松正顕さんにお越しいただきました。
平松さんは、国立天文台で、天文情報センター講師、台長特別補佐、および産業連携室長として活躍しておられます。
平松さん、本当のお忙しい中ですが、お時間をいただいてありがとうございます。
本日は、特に宇宙についてのテーマをセットしながらですね、お話をさせていただきたいなと思っております。よろしくお願いいたします!
平松
こちらこそ、よろしくお願いします。
岡本
それでは、まず、平松さんがどのようなことに取り組んでいらっしゃるのか、自己紹介を兼ねてお話していただいてもよろしいでしょうか?
平松
はい。平松正顕といいます。国立天文台の講師というのをやっております。
国立天文台は、宇宙を研究する機関、それから宇宙を研究するためのいろいろな望遠鏡なんかを作って運用する、そういうことを仕事にしています。
私は、大学と大学院で天文学を勉強しまして、天文学の研究者として仕事をしています。大学院を出た後は、3年間台湾で研究員をしまして、そこで星が生まれる様子というものを、日本、アメリカ、チリの望遠鏡を使って研究をしていました。
夜空には星がいっぱいありますけれども、太陽も含めて、ある時に生まれて、だんだん成長して成熟して、ある時に一生を終えるというような、星には一生があるんですね。それがどのようにして生まれるか、特に夜空にはですね、大きい星もあれば小さい星もあるんですが、小さい星がなぜ小さいまま成長を止めてしまったのかというのが、主な私の研究テーマでした。
夜空に隠れている生まれたばかりの星を望遠鏡で観測して、星の周りがどうなっているのか、その星がどうしてあまり大きくなれなかったのかというのを研究していました。
その後2011年に国立天文台に就職をしまして、そこではその研究と合わせてですね、今、私の背景に写っている、これは南米のチリにあるアルマ望遠鏡という望遠鏡で、日本だけじゃなくて世界の22の国と地域が一緒にやっている望遠鏡ですけれども、この望遠鏡の東アジア地域の広報担当という仕事をやっていました。
平松
2011年は、このアルマ望遠鏡がちょうど観測を始めたところで、新しい成果、おもしろい成果や発見というのがどんどん出てきたんですけれども、それをホームページに載せたり、プレスリリースを書いたり、SNSを運用したり、いろいろなところに講演に行ったりと、天文学の成果、特にこのアルマ望遠鏡のおもしろさやすごさを多くの方に知っていただくための仕事をしていました。
そして2021年からですね、アルマ望遠鏡から少し離れまして、もっと広く、日本国内にある電波望遠鏡、それから光の望遠鏡が、これからも観測していける環境を守るための仕事をしています。
例えば、携帯電話とかWi-Fiとか、身の回りにはいろいろな電波を使う装置がありますけれども、こればかりになってしまうとですね、宇宙からくる弱い電波をキャッチできなくなるんですね。だからお互いに譲り合って、ここは電波望遠鏡に使ってください、ここは携帯電話で使ってくださいというような取り決めを、日本の中でも、あるいは国際的にもやっているんです。私の仕事はその取り決めを決める会議に出てですね、電波天文としてはこういうことを考えて、ここまでは私達も譲れるけれども、ここは譲れないということを議論しています。限りある電波の資源を共有すること、観測できる環境を守りながら電波を使う便利な社会の中で共存するということを目指して仕事をしています。
それ以外にも、国立天文台が持っている技術を、いろいろな社会に生かしていただけるように産業連携をするところの仕事をしていたり、いろいろなことをしていますけれども、天文学の研究がこれからもずっと続いていけるように、いろいろな環境を整えるということが仕事かなと思っています。
岡本
ありがとうございます。
ちなみに、最初に研究テーマにされていたという「小さい星はなぜ小さいままなのか」ということですが、非常に興味を持ってしまって、いきなり研究内容の話になってしまうと時間が足りなさそうなので、簡単よいのですが、それはなぜなんですか?
平松
基本的には、周りに星の材料が少なかったからですね。生まれた場所の環境に大いに依存して、その星の一生が決まっているということになります。ただ、まだわからないところもたくさんあります。
岡本
ありがとうございます。星も周りの環境でその一生が変わってくるんですね!おもしろいです。
そこを掘り下げて伺いたいところを少し我慢して先に進むと、僕も以前お伺いして驚いたのが、なぜ国立天文台が電波の領域について交渉しているのかということだったのですが、国立天文台に関して、一般的に皆さんがイメージをしているのは、望遠鏡があって、それでいろいろな夜空を見て、宇宙の先を観察しているというイメージだと思うんですれど、よく考えてみると、その望遠鏡が電波望遠鏡なわけですよね。
だからこそ、電波における相互干渉を、バンド(周波数帯)を変えながら調整されているというのは確かに納得で、よくよく考えると、本当にね、電波望遠鏡を使って何億光年先からきたものすごく弱い電波をキャッチしてるんだよなということを改めて意識しました。
どういう世界に生きているのかということを理解する一つの手助けになる。
岡本
ちなみに今お伺いしていて思ったことは、宇宙に関する仕事の領域というのは、望遠鏡を作る人もいれば、電波望遠鏡を作る方もいれば、それを使って研究をする人、当然その向こう側に行くためにロケットを開発する人、ロケットに乗って実際に宇宙に行って研究する人、もちろん、それらの活動を広く発信する広報をする人、などなどその他にもたくさん領域があると思うのですが、一般的には、もちろん教育の現場を含めて、何となく、「宇宙」という大きな枠でひとまとめに捉えられてしまうんですよね。
さきほどもおっしゃっていた、平松さんの後ろの壁紙にもあるアルマ望遠鏡にしても、それを建設する人、その前には設計する人もいて、設計の裏側にも、設計以外のところの物理の領域のところがあってと、もう本当にいろいろな方々が参画していて、かつアルマ望遠鏡の場合は、22もの国と地域の方々が集まっているので、そこにそれぞれの利害関係があったり、譲れない領域があったりということで、本当にご苦労された、今もされているということがあると思っているんですが、
もう一度少し話を元に戻して、「宇宙」と大きなひと括りで見ていく場合、平松さんが今取り組まれているお仕事とか、国立天文台としての役割というものがどういうところにあるのか、日本にとっての重要性であったり、先ほどの電波も問題もそうだと思いますが、社会にどう還元されているのか、そしてもう一つ、将来にどのように発展していくものなのかということを少しお伺いしたいなと思います。
平松
もっと良い性能の望遠鏡を作ろうと思った時に、一つの大学だけではできない。一つとか二つの大学が協力するだけでもやはりできなくて、日本の国として、国立天文台というものが国の組織としてできて、そこに日本の力を結集して、世界に冠たる非常に高い精度の望遠鏡を開発して運用する。そしてその望遠鏡を日本の研究者、さらに世界の研究者に使ってもらうことによって、大きな成果を出す。これがやはり、国立天文台の存在意義になります。
このようなことを、「共同利用」と言いますけれども、私達は、研究ができる環境を整備し、それをいろいろな方に使っていただく、そういうことが大きな仕事になっています。
研究者が取り組むテーマはとても細分化していて、ひとつの論文を読むだけでは内容を捉えるのは難しいです。そこで、私がやっていた広報の活動を通して、宇宙のいろいろな姿を皆さんに知っていただくというのは、大きな社会への還元だと思っています。
どうしても日頃の日常生活の中、今日明日明後日ぐらいのこととか、非常に近くのことしか考えないということもあるかもしれませんけれども、でも天文学がこの何百年の間に明かしてきたのは、やはり宇宙というのはものすごく広くて、その中の片隅に私達が住んでいる地球があって、その上に私達が生きている、この広い世界それから非常に長い時間の中に私達がいるという、このような世界のあり方をですね、天文学がこれまで明らかにしてきたと思っているんですね。
ですから天文学は、皆さんが、今、どういう世の中に生きているのか、どういう世界に生きているのかということを理解する一つの手助けにはですね、なるんだろうと思っています。
広い視野、長い時間、そういう感覚を持っていただくことによって、皆さんの生活の仕方であるとか、世の中の見方であるとかも少し変わるかもしれない。さらに、幸いにも宇宙は割と人気がありますので、例えばお子さんたちにですね、宇宙とかロケットとか、そういうもので興味を持っていただいて、必ずしも全員が天文学者になる必要はないんですけれども、例えば、理系であるとかモノづくりに興味を持った人がその後大きくなって、次の世代の社会を担う人材になるのというのは大いにあり得ると思いますので、そういう面でも、私達はこの将来の世代を支えていきたいと思っています。
さらにもっと具体的に言うとですね、実は、望遠鏡のために開発した技術は、望遠鏡以外にも応用できることがあるんですね。例えば、非常に弱い宇宙からの電波をキャッチするためには、ものすごく性能の良い電子回路が必要なんですけれど、実はこの電子回路は、量子コンピュータに応用ができるかもしれない、あるいは医学にも応用ができるかもしれないな、いうこともあります。
さらに、夜空の星を非常にシャープに映す技術というのはですね、例えば衛星との間で光通信をするときにも使えるかもしれないということで、今後の便利な社会、より安心して暮らせる社会を作っていくための基本的な技術に、実は天文学の技術が応用できる可能性が見えてきています。
ですから、そういうところをより多くの方に知っていただいて、そこに興味がある、関心があるという企業の方と一緒にいろいろな開発をしていくと、これまで思ってもいなかったこととか、これまでできなかったことができるようになるかもしれないと思っていますので、そういう意味では、私は「国立天文台産業連携室」の仕事をしていまして、天文学、見えない星を見る技術を、社会のために活かすということを目標としていろいろな活動をしています。
岡本
天文学の研究と天文学の発展のために開発をしていたものが、他の領域に転用できる、活用できるということは、やはりものすごく幸せなことですよね。
一緒にやろうよというパートナーも見つかるわけですし、そこからまた技術がアップすることで、本体である望遠鏡にまた戻ってくるとか、そういったアップデートができるようになっていくということなんだと、今お伺いしていて思ったんですけれども。
きっと元々想定していなかった領域での活用ということもたくさん出てくるでしょうし、当然30年前40年前とかの望遠鏡に比べると、今の性能は遥かに高くなっていて、当然、宇宙の始まりというもののイメージもよりできるようになっていくのだと思います。
その中で、実際に産学連携もずっと進められていらっしゃると思うのですが、これは国立天文台だけではなくて、他の業種の社会に出て行っても同じですが、たくさんの人たちとコミュニケーションを取りながら進めていくことになると思うんですよね。
それってすごく大変なことにもなってくると思うんですが、この辺りでご苦労されたことは結構ありますか?
平松
そうですね、やはり天文学の研究者コミュニティとは違う人たちは、やはりそれぞれ違う考え方をしていたり、あとは日本と海外の方だとやっぱり考え方が少し違ったりするわけですよね。
ですからそこをちゃんと、考え方の違いを埋めていかないと、お互いに前に進めないっていうことはあると思います。
具体的なエピソードはなかなか出てこないんですけれども、ともかく、相手が何を思って、どういう背景でその言葉が出てきているのかということをちゃんと聞く、ということですかね。
もちろん、相手にもこちらにも事情があるはずなので、その落としどころをうまく見つけていくという作業は、大きなことから小さなことまでいろいろやっていると思います。
岡本
この傾聴力というものは、日本人は他の海外の人たちと比べて得意な方だと言われていると思うのですが、実際に海外とのコミュニケーションが多くなってくる中で、特に宇宙の領域にはまだ新たな発見もたくさんあるでしょうし、以前もある方と宇宙法の話になったのですが、例えば人間が地球から出て、月面に行き、月面にある何かを発見して持ち帰ってきたときに、この所有権はどこにあるのかとか、関税はかかるのか、もしそこで事故が起こってしまった場合はどこの国の法律でどういう補償をしなければいけないのかというようなルール決めも、宇宙に関しては新たに整備していかなければならないことになると思うんですよね。
先ほどお話されたように、海外と交渉する難しさがある中で、さきほどの電波の問題にしても、ここだけは譲れないよというネゴシエーション力もするっていう力も必要だと思います。
ですから、傾聴力はもちろん必要ですが、日本人にありがちな、言われたことを聞いてわかりましたと忖度してしまうだけの方向ではなく、自分の意見を相手に伝えて、言葉は悪いですが、ぶつかりながらでもですね、先に進んでいって、自分たちに必要な方向に持っていく力も、グローバル人材としてすごく重要になってくると思うんです。
そういう意味で、アルマ望遠鏡という国際プロジェクトや国際的な電波の問題を交渉される平松さんからご覧になられて感じている世界の変化と、我々日本人の気質といいますか、そのあたりのバランスを含めてお伺いしたいなと思います。
平松
はい。私もまだ10年程度なので、10年ぐらいではあんまり世界の人が変わったとか自分たちが変わったというような変化はあまり見て取ることができてないんですけれども、先ほど日本の人は忖度するというお話がありましたけども、海外の人たちも忖度するんですよね。
ですから、そんなに全然別の人種だとは思わないです。もちろん、程度の差は多少あると思いますが。そういう意味で、あまり別の人種だと思わずに、真摯に1人の人間だと思って、聞くべきところは聞くし主張するべきところは主張するということを徹底することが必要だと思います。
そうは言いながらも、私自身もですね、典型的な日本人だと個人的には思っていて(笑)、だからなかなか自己主張が難しいんですけれども、でもそこはやはり何とか踏ん張って、これは言わなきゃいけないなというところをかなりがんばって発言するというのは、今後も気をつけていかなければならないかなと思います。やはり結構エネルギーが要るんですよね、慣れないことをするし。とはいえ、例えば仕事としてそういうことをやっている、あるいは20年後30年後の天文学を支えるためにはこれは言わないといけないということもやはり出てきますので、そういうところはちょっと気分を入れ替えて、強めに、自分の中で奮い立たせて発言をするということは、やっていかないといけないんだろうなと思います。
海外の人も忖度をすると言ったのは、やはり建前と本音があるのかな、別の人の様子をチラチラ伺いながら発言しているのが見えるとか、そういうのはアメリカの人だってヨーロッパの人だってあるんですよね。ですから、日本人だからこうっていうのは、一般論としてはあまり気にしない方がいいのかもしれないです。
岡本
今、本当に、グローバル化という言葉はもう聞き飽きて、日常レベルでも普通に自然に会話ができる社会環境になってきたと思うんですよね。インバウンドのおかげで海外の人たちもたくさん入ってきて、今までは日本人が海外に行かなければ、別に自分が英語で話さなくても過ごしていけるよねというレベルだったのが、逆に海外からどんどん入ってくるおかげで、もう否が応でもグローバルの波にのまれて、コロナで一度落ち着きましたが、その後、また戻ってきたという中で、今の子どもたちにとっては、グローバルというものは幼少期からの人格形成の中で自然なことになってきていると僕は思っていまして。
その中で、自己主張をしなければいけないという部分と、どうしても例えば教育の現場で考えると、授業中に先生!先生!!と自分からどんどん発言して、何で?何で??と聞いていくと、学校の先生たちは困ってしまう場面が多いと思うんですよね。自分の向学心・好奇心を深めるための本当の学びはそこにありつつも、どうしても教育の現場としては、授業内にそれを突き詰めていくのはなかなか難しくなってくるという現状があるように感じます。
例えば、インターナショナルスクールの子どもたちと話をしていると、日常から多種多様な国や地域の方たちとコミュニケーション取っている中で、平松さんが先ほど話されていたように、同じ人間であって、考え方や捉え方は少しずつ違っても話せば理解しあえるということを、幼少期からの人格形成の中で自然と理解している子どもたちがすごく多い印象です。
変化してきたこの社会環境に対して、教育環境もどうシフトしていくか、そのあたりも重要なのではないかなと思います。
体験してみる機会を与えるというのは大事かなと思います。
岡本
さて、少し話題は変わりますが、この対談シリーズでは、キャリア形成の観点から、現在専門的なご活躍をされている皆さんがどのような経緯や思考がきっかけでその領域に進まれたのかというお話を伺っています。
平松さんご自身も、まずいつごろ宇宙に興味を持たれて、今の道をご自身でどのように決められたのかということをお伺いしてよろしいでしょうか。
平松
私の記憶の中ではですね、おそらく小学校の1年生だか2年生ぐらいの頃ですね。きっかけとして、一番古い記憶としては、両親が星座早見盤とギリシャ神話の本を買ってくれたことですね。それを好きでよく読んでいたというのが一つの天文に関する古い記憶です。
とはいえ、その頃からもうそれ1本だったかというとそういうわけでもなくて、その頃はもちろん恐竜とか昆虫とか、子どもが興味を持ちそうなものは一通り興味を持っていたので、そういう意味では別に最初から天文しか見ていなかったわけではないです。
ただその後、天文に限らず、いろいろな本を読んで、やはり天文、宇宙がおもしろいなと強く意識していったのは小学校の6年生ぐらいだったかなと思います。私の小学校では、卒業をするときに、学年全員でタイムカプセルを埋めて、20歳になったら開けるというのがあったんですけれど、そこに20歳の自分にお手紙を書きましょうというものがあって、僕は宇宙科学研究所に行くって書いてあるんですね。JAXAの宇宙科学研究所なんですけれども。だから当時は、国立天文台というものを認識していたかどうかは覚えていないですけれど、そのときから、将来的には宇宙に関する仕事をしたいなと思っていたようです。
その後、今もありますけれども、科学雑誌のニュートンにですね、「天文学者になるには」という特集記事があったんです。今だったらどこの大学に行けばどういう勉強ができる、ということはインターネットで調べればすぐ分かるわけですけれど、当時はそれがなかったので、ニュートンに一覧表があって、全国の大学のどこで何を学ぶかっていうね、それで、東京大学だと天文学のことがいろいろと勉強できるんだなというのがあったので、中学2年生ぐらいだったかと思うんですけれど、東京大学で天文学を勉強できるといいなというふうに思ったわけです。
そこからは一応、天文一本かもしれないです。
岡本
なるほど。ただ先ほどお話されていたキーワードでいくと、インターネットがなかった時代ほど、子どもたちが自分から能動的に動いて調べていかないとね、将来に関する情報も集められなかった時代だと思うんですよね。
ですから、その時のきっかけとか出会いというものは、すごく大きかったんだなって、たくさんの方々にインタビューをしていて思うんですけれど、最近の子どもたちは、逆に言うと、インターネットでどこでもアクセスできてしまって、ところどころ間違っている情報でも、ファクトチェックをせずに正しいと思ってしまうことも多いと思うんですよね。
そういう意味では、何らかの原体験だとか、苦労したり、自分から探して、調べて、見つけ出してきた目標設定だとか、そこから自分はこれに向かってやってみたいなと思ったことは、そこに行きつける機会のハードルが今より高い分、当時の子どもたちにとってはより強いものになって、今の子どもたちはどちらというとちょっと希薄になっていると感じるんですよね。
とはいえ、もちろんこれは止められないので、どのように原体験を与えるか、星を眺めて綺麗だなと、あの先は何があるんだろうって考えて興味を持ってくれてもいいし、今日はなんだか月がいつもより近いんだけれど、この前は小さかったのに、今日はなんで大きく見えるんだろうとか、「なぜ」という問いを立てる力、問いを続ける力っていうのが、すごく大切だなといつも思っています。そのあたりは、平松さんはすごく強かったっていうことですよね、自分で調べて、こういうところに行きたいということも含めて。
平松
そうですね。ただ、最初の星座早見盤を買ってくれたというのも、ニュートンについても、最初のきっかけは親なんです。親が買ってきてくれた。
ですから、言ってみれば、その枠の中でちょうどヒットするものが見つかったという意味で、それはそれでもしかしたらラッキーだったということかもしれないですね。自分からどんどん動いていくという性格でも、基本的にはあまりないので。
ただ、与えられたものの中で、それを深めるということは割とやっていたかもしれないですね。宇宙に関してもそうですし、いろいろな本を読むというのもあったと思います。
岡本
まあ、ニュートンを買ってきてくれる親というのも、そんなに多くはないと思いますよ。(笑)
平松
そうですよね。 しかも親が最初に買ってきてくれたのは、恐竜特集なんですよ。ニュートンの(笑)。
岡本
恐竜じゃなくて、宇宙にいったというのもおもしろいですね!(笑)
平松
そうなんですよ。だから、何が子どもにヒットするかというのも、与えてみないとわからない面もあるので、そういう意味では非常に幅広く可能性を与えてくれていたという面は、もしかしたらあるかもしれないですね。
岡本
冒頭で、「小さい星は、なぜ小さい星のままで成長を止めているのか」というお話を伺いましたが、そういえば、人間の成長も同じだなと思いました。人間も周りの環境に適応しながら、その環境を吸収して成長していくわけで、僕はよく、環境ときっかけでしか人はなかなか変わることができないという話をするんですけれども、まさしく星も同じですし、当時の平松少年も同じなんだなと。
ちなみに、少し話がずれてしまうかもしれないのですが、特に今アメリカが、国家として民間に宇宙開発を進めさせている。国がすべてを用意するのではなく、お金を出して、法律的な支援もするから、民間の企業が宇宙事業に参画して、ビジネスとしても含めて、うまくスケール化していってくださいよというメッセージが発されたことによって、アポロ計画の次にもう一度月に行くんだと、アルテミス計画が発表されて、今は世界中がどんどんそれに動いていくという流れで、日本も今、フェーズが少しずつ変わって、民間にという話になってきていると思うのですが、
平松さんから見て、天文というよりも宇宙全体のことで考えたときに、この流れというのはどのように感じられているのかということをお伺いしたいです。
平松
そうですね、NASAが打ち上げるロケットへの興味っていうのは、子どもの頃からもちろん宇宙への興味としてはあったので、それがスペースXみたいな企業として出てくるということはやはり結構驚きですし、スペースX自体、動きが早いというか、どんどん次のものを開発して、失敗したら失敗したで、それをちゃんと糧にして次の一歩を踏み出すというのは、すごいなと思って見ています。
岡本
民間で、ビジネスとしても、宇宙旅行の話とか、実際に月だけじゃなく火星まで行く話がでていたりしますよね。
さきほど出たイーロンが話しているのは、火星に片道切符で行きたい人は手を挙げろというくらいで、それを日本で言ったら大変だろうなと思いながら聞いていて、ロケットも、自立して上に飛んでそのままの状態で戻ってくるというような姿勢制御ってすごいなと感心しながら見ているのですが、先ほど動きが早いというお話がありましたが、まさにそうで、ロケットの実験などで失敗したとき、日本の場合では、反省会見をしたり、大ごとになるところを、”X”で「失敗しました!」と書くだけで、失敗だから次ね!と進めていけるというのが、民間だからなのか、イーロンだからなのか、国民性というか、受容してくれるという周りの人たちの容認力みたいなものもあるのだろうな思いますね。
日本がこの領域に、負けないでどんどん入っていく、進めていくいうことを考えた場合、だからこそ次の世代に宇宙に興味を持ってもらって、こういう世界、先ほどで言うと平松さんが幼少期にニュートンを読んだり、宇宙ってどんなふうになっているんだろう、興味あるからこの大学に行ってみたいなという自分の中のレールを、自分で作っていくということがすごく重要だよなと、僕はいつも思っているのですが、そうはいってももちろんたくさんの領域がある中、実際には宇宙に対してしっかりと興味を持つのは一握りですよね。
空を見上げれば月があるのは当たり前だし、太陽があるのも当たり前だし、別に今日曇っていようがそれはただの天気で、当然のものとして特に気にしない人たちが圧倒的大多数だと思うんですよ。
でも恩恵として、太陽のおかげで野菜が食べられるわけですし、人工衛星のGPSでのおかげで、グーグルマップのおかげで、どこにでも行けるわけで、だからこそ、こういった領域は我々の生活において本当に重要なことなんですよね。
アメリカのスタートアップなども、多くの優秀な人材が宇宙に目を向けて、ユニコーン企業を目指すことを考えている現状ですが、もし次の世代に宇宙に興味を持ってもらうきっかけがあるとすれば、周囲の大人たちはどういったものを与えていくべきでしょうか?
平松
おそらく、何に興味を持つかって、やはり人によって違うと思うので、これを与えればというのは簡単ではないと思います。
星を見に行くとか、プラネタリウムを見に行くとか、科学館を見に行くとか、ロケットの打ち上げを見に行くとか、いろいろな、ある種の「本物」を見る機会というのは大事なんじゃないかなと思います。
私は、割と田舎の方で育って、テレビとかは見ましたが、限られた手段でしか本物に触れる機会はありませんでしたけれども、今だったら、それよりは本物に触れる機会は増えているかもしれないと思うんですね。
そういうものに触れて、それでも興味を持たなければ、それはそれでと思いますし、1回かじってみて、これは美味しいなと思ったら、その次に行けばいいし、かじってみて口に合わないかなと思ったら、それはそれでその人の個性みたいなものなので。
まずはいろいろなものを体験してみる機会を与えるというのは大事かなと思います。
岡本
ありがとうございます。まさにさきほどお話した、環境ときっかけという部分ですよね。
ぜひその気持ちを大事にして、やってみるといいです。
そして、その時には、忍耐とか、体力とか、
分野に限らない力というものも、やはり大事になってきます。
岡本
ちなみに、今のネット社会だからなのかはわかりませんが、非常に多くの情報に簡単にアクセスできる分、広く浅く見ていってしまって、そこから深掘りをすることはせずに、ただ単純に広く見ているだけだとか、逆にすごくフォーカスしすぎてしまって、ピンポイントにしか興味がなく、他は絶対に見ないよという子どもたちもいて、それが例えば、天文とか恐竜とか、海だとかという領域であればよいのですが、学問的なものではなく、単純なバラエティー的なもの、例えば〇〇系ユーチューバーの動画みたいなものを、楽しいからずっと見ているとかとなってしまうとね、気分転換にはいいでしょうし、当然それを否定するわけではないのですが、せっかく吸収できる時期に、それ以外のところに興味を持たない、持てなくなる子どもたちもやはりいて、よく教育の現場で言われているものだと、YouTube、TikTokを見ている時間を制限しましょうという、制限の方向にいってしまうんですけど、やはり僕は、逆に興味を広げてあげるためのものを作ってあげることが必要かなと思っていて、それがさきほども出てきた原体験だと思っているんですね。
僕が今一番行きたいところの一つに阿智村があるのですが、晴れるか曇るか分からないけれど、とりあえず1回行ってみて、本当忙しい現代の中で、何にもない自然の中でずっと眺めている時間、宇宙のことに想いを馳せるとか、綺麗だなと思う時間というものがあって欲しいなっていうのを、今一瞬、僕疲れているのかな?と思いながら話をしていますが(笑)、
実際に、教育の現場も同じだとして、やはり原体験を与えてあげたいとか、物事をゆっくり考えさせてあげたいという思いはある反面、平松さんみたいに、きっかけから何かやりたいものを見つけて、そこから実現させていくという流れは理想的だと思うんですよね。
そういった子どもたちを1人でも多く育ててあげたいというのが学校の現場だと思っていて、この対談を読んでいただいているのは学校の先生方が多いのですが、そのときに、子どもたちに対して先生たちがどのように背中を押してあげるべきかという部分は、すごく悩まれている方が多い印象です。
いわゆるキャリア教育領域に入ってくると思うのですが、例えば宇宙に興味を持っている子どもたちに向き合った場合、どのようにアドバイスをしていってあげたらいいのか、非常に悩むと。というのも、自分の専門領域ではないからという意味でね。国立天文台の平松さんのメールアドレスを教えるから、自分で行って聞いてこいってのはある意味一番簡単だと思うんですけど、それ以前のレベルで、最初の段階のとっかかりとして、漠然と宇宙に興味はあるんだけれど、その先どう進めていけばいいのかわからないとか、僕自身も相談をされたことがあるのが、保護者の方からすると、子どもが宇宙に興味を持っているといっても、その領域で将来ご飯が食べていけるのかがすごく心配なんだと、切実に保護者の方から言われる場合があったりするんですよね。
そういった場合に、先生たちを含め、我々専門外の大人が、子どもたちやご家庭にどのようにアドバイスをしていけばいいかということについて、少しご助言をいただけると嬉しく思います。
平松
そうですね。
私は天文1本で来ましたけれど、これは理想だと思わない方がいいんじゃないかと思うんですよ。別に途中で進路を変えてもいいと思うし、大学で何か別におもしろいものがあったらそっちにしてもいいと思うので、何が理想かということはあまり考えない方がいいのではないかなと、個人的には思います。
僕も、今この道にいますが、これがベストだったかどうかは自分でもよく分からないので。だから、その人が何に興味を持つか、何を与えたらどういう反応するかというのは、人それぞれですし、10歳のときに機敏に反応する子どももいれば、20歳で機敏に反応する人もいるかもしれないし、そういう意味では、あまり可能性を狭めるのではなくて、一本道がいいと思うのではなくて、柔軟に変えられるという本人の力と周りの環境を作る方がいいのではないかなと、私は思います。
天文なり宇宙なりに興味を持つことは、おそらく昔よりは、仕事という意味でも、学べる大学という意味でも、大きく広がっていると思います。食べていけるかというのは、やはり10年後20年後の世界なんてどうなっているかはよくわからないので、もちろん食べていくのが難しい選択もあるかもしれないし、そのまま食べていけるかもしれないし、ちょっと分野を変えて、それまで天文なり宇宙なりで培った力を活かしていける仕事もあると思うので、それほど深刻にならなくてもいいのではないかと思います。
岡本
そうですよね。
以前僕もあるお母さんから、娘が天文学の方に進みたいと言うのだけれど、先生どうしましょう?と相談されたことがありまして。その時僕は、それこそ阿智村を紹介したんですよね。一度お母さんも一緒に、お嬢さんの興味の領域をご覧になってくればいいんじゃないですかと。僕もまだ行ったことがないのにね(笑)。
そうしたら、本当に行ってきたんですよね。そしてその経験が後押しになって進路を決めて進んでいってくれたんですけれども。
一つの体験ですが、どうなるかはわからないですよね。阿智村に行って、ネイチャーガイドになっているかもしれないし、工学系に興味を持ってくれたら、もしかしたら全然違う航空宇宙の方に進んで飛行機のエンジニアになっているかもしれないし、産業用ロボットの研究をするかもしれないし、もちろん星の研究をするかもしれないし、何があるかがわからない。だからこそ、最初からご飯が食べられないから心配だとか、そんなことを言っていたら、どの領域だってリストラになるかもしれないし、技術革新で消えてしまうかもしれないよという話をした記憶がありまして。ちょうど今は学校では進路相談の時期で、一般受験の高校3年生が最終的にどこを受験するかという話になってくるので、タイムリーな話題だなと思って平松さんにも伺ってみました。
あともう一つ、子どもたちに対して、今実際に宇宙に興味を持って子どもたちに、いや他もあるからいろいろと幅広く見てみるのもいいよというアドバイスも一つの道としてはありますが、そこで背中を押してもらいたい子どもたちもいると思うんですよね。
そういう子どもたちに対してのメッセージも含めて、どういうふうに夢を叶えていったらよいと思われますか?
平松
そうですね。
個人的には、宇宙のおもしろさ、天文学をやっている理由の一つは、やはり分からないことがまだいっぱいあるということですかね。分からないと気づいていないことも、もしかしたらまだいっぱいあるかもしれないというのは、アタックしがいがあるというか、それを問い続けていくことの楽しさだろうなと思うんですよね。
あとは、宇宙開発、私はもちろん宇宙開発につながることはしていないですけれど、行ったことのない世界に行くというモノを作るとか、そのための手段を提供するとか、あるいはもちろん日常の生活がより便利で安全に暮らせるようになるための手助けをするとか、宇宙と言っても、その先はいっぱいあって、特に宇宙開発とか宇宙に行くというのは手段なので、それは目的ではないんです。その先に何を、どういう世界を、夢見ているかということを考えるのがですね、特に宇宙開発に進む、進みたいと思っている人は、考えてみるといいかもしれないなと思います。
もう少し広い話で言うと、はやり世の中にはいろいろとおもしろいものが溢れていると思っていて、もちろん、エンターテインメントの世界もそうかもしれないんですけれども、自然を見るとか、モノを作るとか、そういう意味でも、いろいろなおもしろいものが世の中にはあふれているので、それを突き詰めていけるかどうかというのは、その人の個性であったり、人によって変わってくるとは思いますね。
宇宙を突き詰めてみたい、そういう気持ちを持っているのであれば、ぜひその気持ちを大事にして、やってみるといいと思います。
そして、その時にはですね、忍耐とか、体力とか、分野に限らない力というものが、やはり大事になってくる。その辺りも少し意識しているといいかもしれないですね。
飽きっぽかったら、おそらく何もできないかもしれないし、飽きっぽくていろいろやるからこそできる何かがもしかしたらあるかもしれないし、そのあたりはゆっくり適性を見つけて、自分がどれに向いているかということを、あまり焦らずに探していけるといいんじゃないかなと思います。
岡本
ありがとうございます。
平松さんの話を伺っていて思ったのが、人間には特性があるじゃないですか。例えば、話をすることが上手な子ども、例えば、周りのことは無視してでも自分のやりたいことをとことんやり続けて深掘りする子ども、それぞれ両方とも得手不得手はあったとしても、この特性が一緒のチームになったときには、すごく大きなパワーを発揮することができると思うんですよね。
国立天文台の中もそうだと思うのですが、いろいろなキャラクターの方々がいて組織というものが成り立っていて、だからこそ強いということがあると思うんです。
学校教育における児童・生徒のうちは、偏差値という一つの指標軸だけで考えてしまう習慣が、大人も子どもどうしても出てしまうのですが、社会出ると全くもってそこが全てではないわけで、だからこそ、いろいろなことを見知っている人とか、多種多様な能力を持っている人たちが集まって、チームを組んで、プロジェクトを進めていくことが、特に宇宙は、もちろんそれ以外でも必要だと思っているので、そういった様々な特性を持った子どもたちが、ぜひ宇宙の領域にも興味を持って進んでもらいたいなと思いました。
さて、最後になりますが、もう一つ、将来国立天文台で働きたいと思っている子どもたち、実は結構聞く話なのですが、そういう子どもたちに対して、平松さんからメッセージをいただけるとありがたいです。
平松
はい。少し重複しますが、繰り返すと、やはり宇宙は、おもしろいことに溢れていると思うんですね。不思議なことだったり、もしかしたら難しいことかもしれないけれど、克服しがいのあることだったり、それがおもしろいと思って宇宙を見ていくわけですので、ぜひそういうところに興味がある人は、ちょっと難しいハードルを越える楽しさとか、世の中の不思議を見つける楽しさだとか、そういうものをぜひ伸ばしていっていただければいいかなと思います。
岡本
ありがとうございます。
これらのメッセージが、今日この話を読んでくださった先生たちの何らかのヒントになって、国立天文台やJAXA、もちろんそれらとは全く別の宇宙ベンチャーを立ち上げる子どもたちなんかも、教え子の皆さんからでてきてくれたらすごくいいなと思いました。
平松さん、本日はお忙しい中、ありがとうございました!
Today’s Expert
東京大学大学院理学系研究科天文学専攻修了、博士(理学)。台湾中央研究院天文及天文物理研究所博士研究員、国立天文台助教を経て、現在国立天文台天文情報センター講師、台長特別補佐、産業連携室長。一般社団法人日本天文教育普及研究会理事。
専門は電波天文学、科学コミュニケーション。天文学に関する広報・科学コミュニケーションおよび天文観測環境の保全を通して、天文学と社会のよりよい関係の構築を目指している。
著書は『宇宙はどのような姿をしているのか』(ベレ出版、2022年)、『一家に1枚 宇宙図』(文部科学省、2007/2013/2018年、共著)など。
Interviewer
岡本 弘毅 OKAMOTO Koki