Interview 003

2022/3/20

MIT 認定マスタートレーナー
石原 正雄さん
ISHIHARA Masao
MIT 認定マスタートレーナー
石原 正雄さん
ISHIHARA Masao
どんな時代にも必要な
本質的基礎力は、
「自分で考え続ける力」と
「人と一緒に協働していくこと」

岡本

本日のゲストは石原正雄さんです。 私が存じ上げる中で、教育における工学の方といえば、石原さん!ということで、どうしても来ていただくて、お招きしました。今日はどうぞよろしくお願いいたします。 石原さんとは、もう随分お付き合いが長いのですが、今の石原さんがやられている取り組みについて、例えばテクノロジー系的なものも含めて、どのようなことをされているのかを教えていただいてもよろしいでしょうか。

石原

はい。今メインでやっていることは2つありまして、1つは、先ほどご紹介いただいた、工学というか今でいう「STEM(ステム)」に関係するようなこととしては、MIT(マサチューセッツ工科大学)で開発された、「MIT App Inventor」というスマホのアプリを簡単に作るようなツールがあります。これは、MITの中では、ハル・アベルソンという先生が先導していて、コンピュータ科学とAIの研究所というのがMITにあるんですけれど、そこのメンバー達がやってるんですね。その背景にあるのは、「コンピューテーショナル・アクション」っていいまして、「計算論的実践」と言うんですけれども、これは、ITができるようになって、それでどうするの?何するのって?いう疑問に答えてくれるような活動でもあるし、自分たちの問題を解決する大きな力、企業とか国とかがなかなか入ってこられないような問題を抱えてる世界の人たちが、自分たちの力で問題解決をしていくツールにもなるということで、そういう考えのもとに作られたのが「MIT App Inventor」なんですけれど、それを日本でも、いろいろな人たちに使って欲しいなということで紹介することをやっています。「MIT App Inventor」のチームはですね、彼らが認定する「マスタートレーナー制度」というのがあって、私も「マスタートレーナー」としての認定を受けて、日本では、たまたまですが、今1人しかいないので、何とかがんばってやっているという状態ですね。 あともう1つは、「MIT App Inventor」とルーツは同じなんですけれども、レゴ®ブロックを使いながら、社会人、主に成人向けですね、今までと違う会議であったり、集まり方をするための、「レゴ®シリアスプレイ®」というメソッドがあるんですが、これを日本の企業ですとか、官公庁とか、非営利団体とか、大学とか、人が集まるところであれば全て使えるんですけども、いろいろな所にこのメソッドを広げるいう仕事をやっています。具体的には、この、レゴ®シリアスプレイ®メソッド というものを使ってもらう「ファシリテーター」と呼ばれる人が必要なんですが、このファシリテーターを育成する仕事を、日本でしているということですね。今話した2つともに、同じ教育思想として、「コンストラクショニズム」、日本では「構築主義」と言ったりしますけど、そのコンストラクショニズムというものをベースにしている2つの活動ですね、それを今やってるということになるかと思います。

岡本

なんとなく分かったようで分からない方が、いっぱいいると思うんですけど、「コンストラクショニズム」って簡単に言うとどんなものなのかというのを、少しだけ教えていただけますか?

石原

「コンストラクショニズム」というのは、日本語で「構築主義」と言ったりしますけれど、これは何かって言うと、頭の中で「考える」って言うんですけども、実際に我々はいろいろな感覚上からの情報を、頭の中で統合して経験を作ったりですね、経験に基づいて、既存の知識と結びつけて新しい知識を作っていったりします。これは、ジャン・ピアジェという発達心理学の研究者の考え方でもあるんですけども、我々の頭っていうのは、新しい知識をただポンポン入れれば、新しい知識ができるということではなくて、自主的に自分が動いていろいろな経験をすることで、その経験に適応するための新しい知識が頭に構成されるという考え方なんですね。では、知識がそういうふうに経験に基づいて構成されるのであれば、つまり、知識は作られるのであれば、その新しい知識を作りやすくするためのやり方というのはどういうことなのかと、こういうことを考えたのがMITのシーモア・パパ―ト。この彼の考え方が「構築主義」、「コンストラクショニズム」というんですけれども、知識が経験を通じて、構成・再構成されるものであるならば、その構成・再構成をしやすくするような学習環境であったり、教育ツールであったり、その教育のプログラムであったり、そういうものを揃えてあげることで、いわば、ピアジェ式の学習の考え方を加速させてあげることができると、これがその「構築主義」の考え方です。 ですから、先ほどの「レゴ®シリアスプレイ®」にしても、「MIT App Inventor」にしても、自分が手を動かして、何らか作品を、自分の考えを投影した何かを作る。そのことで自分の学びがどんどん深くなるようないろいろな仕組みを背後に作っておくと、こういうことがその「構築主義」の考え方ですね。

岡本

その、「手を動かす」ということって、小さいうちは、皆さん砂場に行ったりとか積み木をやったりとか、それこそレゴ®ブロックが好きで作ったりっていうのがあると思うんですけれど、大人になるにつれて、デジタル化が進行しているという社会の風潮もあると思うんですけど、どんどんモノを触るって事が少なくなってきて、全てを頭の中で考えたり、シミュレーションの中だけで終わってしまうことがすごく多い気がするんです。その風潮ってなかなか今、直すのは難しい中で、アナログ的に手を動かして触っていく、それをデジタルの中に入れ込むという行為はすごく大切だと僕も思うんですが、そういったものって理解してくれる方の数はどうなんですか?増えているんですかね?

石原

大きな傾向としては、今おっしゃったようにね、我々は例えば、活字とか画面のあらゆる情報だけで、新しい知識を得てしまうと考えている風潮があるのかもしれませんけれども、一方で、例えば 「Google効果」っていう言葉がありますね。「Google効果」というのは、情報というのは、今はネット検索をすれば必ずどこかに見つかるようになっていますので、何か検索してできたものを自分で覚えておく必要がほとんどなくなっちゃっていますよね。何かあれば、キーボードを叩けば情報はすぐ出てくる、ということは、我々の脳はいつも近道を好むというか、楽をしたがりますから、それによって、「記憶する」ということを我々はどこかに置いてきちゃう、それを「Google効果」っていいます。 そのように、我々は、主体的に何かを働きかけて、情報をただ頭の中に入れていくだけじゃなくて、体の五感を使って、そこから入ってきたいろいろな情報、感覚情報を頭の中で統合して、初めて経験ができるって言うような、経験についての新しい考え方をすれば、どうやったら新しい知識がより身につくのかというような理解はできるんじゃないですかね。 そういうことについては、最近、神経科学とかを脳科学の本も世の中にいっぱい出ていますので、そういうものを見ると、我々が経験とか新しい知識を獲得するというのはつまりこういうことなのかというのが、もう少し皆さんが正しい理解にたどり着くのではないかなと思いますね。

岡本

お聞きしていると、僕の場合は、「レゴ®シリアスプレイ®」もそうですし、テクノロジー系のものも触ることを多くやっているので、すごくすっと入ってくる部分があって、理解ができるんですけど、ただ片方で、文系的な方々からすると、どうしてもやはり、IT系のものが苦手であるとか、論理的に物事を考えて形にしていくことが苦手だっていう方もすごく多いような気もしているんですよね。とは言いながらも、情報化社会の中で生きていかなければいけないっていうその矛盾しているというか、二律背反的なものがあると思うんですけど、そういう方々が学んでいくためのきっかけとなるものっていうのを、「レゴ®シリアスプレイ®」にしても、「MIT App Inventor」にしても、少しハードルを下げていっていくって言うと変なんですけど、導入から発展まですごく間口が広くなっているようなものに僕は感じているんですね。 その中で、石原さんが今やられてその2つの軸というものそれぞれについて、その領域がどのように今から社会的にご発展されていくのかっていうのもお伺いしたいな思います。

石原

これは、例えば、我々が何か問題について考えますよね。自分は何でこう、あることに対してうまくいかないんだろうな?とか、我々のチームはどうしてうまくいかないんだろうな?とか、うちの町内はどうしてうまくいかないんだろうな?とか、いろいろなことがありますけど、個人にしろ、チームにしろ、組織にしろ、国家にしろ、何が問題なんだろうって頭の中だけで考えても、なかなか問題の本質に気づくことってできないんです。それを可能にしてくれるのが、先ほどの「レゴ®シリアスプレイ®」という1つのメソッドですね。頭の中や心の中でモヤモヤしていることを、自分自身も分からないようなことについて、自分の理解なりを気付かせてくれるという、そういうメソッドです。だから、このメソッドの目的は何かっていうことをすごく大雑把に言えば、「気づきを得る」ということ、「気づきを得て、それを確信にして自信を持って、コミットして、実行に移すところまでの決意をする」っていうのが、このメソッドの役割です。 じゃあ決意はしたけど具体的に問題解決するためにはどうやってやるの?これはやっぱりツールがいりますよね。それから、もう問題の所在には気づいた、そしてこれがどういうものかも分かって、絶対解決したいと思ったら、今度はそれを具体的に実行するためのツールを手に渡してあげれば、これは問題解決に本当に近づくっていうことになりますよね。そういう意味で、先ほどの「レゴ®シリアスプレイ®」というのは「気づきを得るため」のツール。そして「MIT App Inventor」というのは、問題の核心に気付いたら、それを実際に「解決するために実践に移すため」のツール。「気づき」から今度は「行動」の方に行かないといけない。「気づきを得ること」と「それを行動すること、実践すること」ですね。なので、私のやっていることは、「気づきから行動へ」っていう2つのことを橋渡しするためのものだと、そういうふうに言えるんじゃないかなと思いますね。

岡本

すごく分かりやすいですね。気づきを得ることってすごくあって、気づきを得た後にはツールが必要、もしくは気づきを得るためにもツールが必要、さらにそれを解決するために「MIT App Inventor」といわれる1つのプログラミングを使ったツールというものを与えることによって、行動を促していくっていうことができるという、両方とも、気づいて、さらにそこからツールとして使ったもので、次のネクストアクションにうまく動いていくっていうことだと思うんですよね。 それを聞いていて思う事は、今の学校とかの教育の現場を考えてみた時に、最初の「気づきを得る」っていうこと自体が、学校も含めた教育の現場で、すこし少ない気がしているんです。特に、受験という制度があるからと言えばそれまでだと思うんですけど、最先端での最短距離を好むというものとちょっと共通してると思うんですが、どうやったら点数が上がるかとかっていう1つの偏差値ベクトルにいってしまいがちだと思うので、「気づきを得る」というよりも、「いかに効率よく学ぶか」という部分に焦点が当たりがちだと感じるんですね。そうすると、その後のツールは、どの参考書がいいのかとか、行きたいところに解決するにはどうしたらいいのか、勉強してこうとかっていう話になっていくと思うんです。 「気づきを得る」ことって、社会に出るとフォーカスされやすいと思うんですけど、どうしても今の学生時代、高校までの間で、「気づきを得る」というのはすごく少ない気がするんですが、この辺りを石原さんはどのように感じることがありますか?

石原

自分で考える時間を持つってことがなかなか今できないですよね。アンデシュ・ハンセンという人が書いたベストセラーになった「スマホ脳」という本がありますよね。この中でも書かれていますけれど、スマホ見るという行為自体が、ドーパミンの放出につながるので、ドーパミンというのは我々の注意をどこ向けるかっていうのを駆動するものですよね、それが1時間に何回も何回も、もしかしたら誰かから「いいね」がついているかもしれないとか、誰かのブログに新しいものが出ているかもしれないとか、本来どうでもいいような情報に、ドーパミンによってずっと脳がそちらの方に向かされるっていう事ですよね。そのようなこともあって、自分でじっくり考える、例えば、本当に本を通しで読むとか、こういうことがなかなか今難しいことになっていますよね。それは、主には、スマホとかデジタル機器によってだと思うんですけれど、さっきの「レゴ®シリアスプレイ®」というのはつまり、1つにはメソッド自体が個人とかチームの気づきを引き出す効力があるんですけれど、もう1つの副次的なことがあって、問題の関係者、要するに利害関係者を10人でも何人でも一堂に集めて、彼らにある一定の時間、そこで話し合うことにコミットしてもらう、いわゆる集中させるって事をやっています。小学生でも中学生でも高校生でも、もしかした先生方でも、自分でじっくり集中して考える時間が本当に持てているかということは1つあると思いますね。意識を何かにずっと1時間向けておくことが本当にもできるだろうかということが、自分の気づきについて、本当にそれを引き出せるかっていうことを難しくしている1つの要因じゃないかと思います。

STEM教育は、教科の範囲の知識を教えることではなく、
「自分が学んでいることを人のためにどう役立てるか」
という発想が必要。

岡本

学校に行って、勉強して、終わって部活やって、家に帰って、宿題やってとなってくると、友達との連絡も今はほとんどデジタルツールが多くなってきてしまってるので、なかなかその間に、落ち着いて本を読むとか、それこそ星空を見上げて綺麗だなとか、今日満月なんだなっていうようなものから、ふとこれなんだろう、なぜって思えるころが、すごく少なくなってきているなと、子どもたちを見ていても思いますし、先生達も感じていると思うんですけれど、答えを教えてくれとか、最短距離でどうやったらいいんだっていう、「HowTo」ばかりになってきてしまってるっていうのが、この「気づき」とか「思考」というものが失われていってるものなのかなって僕自身でも感じてます。 その中で、「MIT App Inventor」の話の方に関わるかもしれないですけど、先ほど「STEM」っていう話がキーワードで出てきていると思うんですが、石原さんは、「STEM」という言語がまだ生まれる前の、「理数教育」とかに近い、まだ言語がなかった時代からずっとこの分野に関わられていると思うんですが、その時代から見て、20年30年近く時代が進行する中で、STEM教育、最近ではアートが入ってSTEAM(スティーム)教育という言葉がよくキーワードで出てくるようになりましたが、そのSTEM教育というものの現在を、石原さんから見た感想とか、日本だけで見るのではなく世界規模でマクロで見た時に、このSTEM教育・STEAM教育というのがどのように発展していくか、今からを展開されていくのかということについて意見を伺いたいです。

石原

まずですね、今、STEM教育って言うと、一番わかりやすいのが、プログラミングしたり、ものづくりで何か小さなロボットを作ったりとか、そういうことだと思うんですけど、こういうもののはしりというか原型はどこにあるかなと考えると、1つすごく分かりやすい流れは、60年代の後半だと思いますけれど、MITの機械工学の先生で、ウッディー・フラワー先生という方がいたんですね。彼が自分の機械工学の授業の中で、学生たちにモノを作らせて、ある課題を競技会の形式で参加させて、「モノを作らせて競技会をする」ということを初めてやった方ですね。その方の思想が、例えばMITとかアメリカの大学にすごく広がって、後に、この方を中心にして、もう1人セグウェイなどを発明した有名なディーン・ケーメンという発明家がいるんですけれど、この方とフラワー教授を中心にして、ロボット競技会を、今世界で一番大きいと思うんですが、そういうものを作りました。その中で、このフラワー先生の思想がすごく大きく残ったのは何かというと、例えばMITの場合、理数のことはできて当たり前ですよね、数学が全然できない学生は多分いないですし、論理的な思考ができない人も多分いないと思うんですね、アメリカでも再優秀な人たちが集まっているでしょうからね。そんな中で、このフラワー先生が自分のゼミに学生を入れる時、どんな学生を求めるか、審査の基準をどうするのか、という話を直接聞いたことがあるんですけれど、それは何かというとね、要するに、人のためにどれぐらい自分が学んだことを役立てるか、そういう思考とか考えとか覚悟があるかということを、この先生は学生を取る時の1つの基準にしているわけです。このロボット競技会の中では、「グレイシャスプロフェッショナリズム」というんですけれども、要するに、技術を学んだ、理数の事がすごくできるようになった、それでどうするの?と。つまり、それは人の何か役に立つとか、チームとして何か一緒に問題解決にあたるとか、そういう事がちゃんとできるようになって初めて意味があるということを、その競技会の中では、子どもたちに身につけて欲しいということでずっとやっているわけです。考えてみると、今のSTEM教育・STEAM教育は学校の教科書の範囲の中の知識をどうやったら効率よく教えられるかとか、おもしろく教えられるかっていう、すごくなんか矮小化されてしまっているような、そういう心配もちょっとしているんですよね。もともと先ほど言ったフラワー先生の思想とか、より親しく、今でも話をさせてもらっているタフツ大学のクリス・ロジャース先生なんかは、こういうところの思想がもっと大事だと、自分が学んでいることをどう役立てるかっていう発想がないと、理数をなぜ学ぶかっていう事とうまく繋げられないと、あまり意味がなくなっちゃうよっていうことですね。 それでいいますと、今のSTEM教育には、先ほど少し矮小化されているような心配があると言いましたけれど、今後どうなるかってことでいうと、やはり元々科学とか技術とかって何のためにあるかということを、より広い人達が、そういう感覚を持って学ぶ必要があるのだろうと思います。 「MIT App Inventor」という私がやっているものもまさにそうで、要するに、自分の身の回りの問題は自分で解決できるよ、自分のコミュニティーの問題も自分たちで解決できるよと、これを具体的に、スマホですけどね、スマホのプログラミングをやることで学んでいこうよということが、「MIT App Inventor」の大きな思想です。スマホはあらゆるセンサーとかあらゆる処理機構が入っているスーパーコンピューターみたいなものですよね。これが今、世界に20億台くらいあって、誰でも手にしている。だから、誰かがある問題解決のソリューションを「MIT App Inventor」で作ると、すぐにGoogle Play ストアとかにも載せられますから、何千万人とか何億人の人たちに使ってもらえるチャンスがあるし、その人たちの悩みとか痛みを軽減してあげることにつながる可能性もあるということで、そういうことを実際にやってみたいというモチベーションを子どもたちにも持ってほしいなということです。将来、そういうふうにSTEM教育が目的につながってくるような展開をしてくれるといいなというのは私の希望です。本当にそうなるかということはちょっとわかりません。

岡本

お話をさせていただく中でいつも思うんですけど、日本の場合って、手段の目的化に走りがちな部分がすごく多くて、欧米型の方々ともお話をしていると、これをやるためにこれが手段として必要だから学びたいとか、これを社会にインパクトを与えたいんだっていう、当然お金儲けしたいっていう人もいるんですけど、そのお金を使って次はこれをやりたいんだっていう目的が明瞭になってる方々がすごく多いのに対して、日本の場合って、もっと小さいミクロ的な所の中で、これをできてる俺がすごいとかかっこいいんだ、みたいなものだけで終わってしまっている方々がすごく多いのが、所感として思ってしまうんですよね。なかなかちょっと答えてないかもしれないですけど、石原さんはどう思いますか?

 

石原

その通りだと思いますよ。要するに、学ぶこと自体が目的化しちゃうっていうね、これはあることを学んでる間には仕方がない時期もあるのかもしれないけれど、より大きく専門的なの分野に入っていく方はまたちょっと別だと思いますが、より多くの子どもたち、我々も含めてね、一般の人たちが科学とか技術に対してどういうふうにいろいろなことを考えていかなきゃいけないか、やっぱりそれは、何かの問題を解決して、より多くの人たちが幸せになるための手段としてそれがあるんだっていう考えをやはり持って欲しいですよね、それから、自分たちでもそれを使って、自分たちの生活を変えることができるんだっていうのは自覚を持ってもらうようになるといいなと思いますけどね。なので、「ロボッチャ」にしても、何のためにロボットを学ぶのかと言えば、やはりインクルーシブな考え方に早いうちから馴染んで、地球のいろいろな人たちに対して、自分たちが学んだロボットが助けになるという感覚を持ってもらう上ではすごくいい試みだと思います。学んでいることと目的を繋いであげるって事がすごく大事だと思いますね。

岡本

今1つ思い出したんですけど、2014年に石原さんに言われた言葉で、僕が未だに覚えてることがあって、石原さんがフィリピンから帰ってこられた後に水戸に来ていただいて、「今からの大人は、子どもたちが将来なにで飯を食っていくのかを本当に考えてあげなくちゃいけませんね」っていう言葉を僕にポソッと話をしてくれたんですよね。その背景には何があったかというと、フィリピンに行ったら、どこに行っても子どもがいないところはない。裏路地に入っても絶対人がいないだろうと思ったら子どもがいる。でも、日本に戻ってくると子どもの数の比率が全然違う。当然、人口ピラミッドの形態が違うというお話もしていて。そんなフィリピンの中でも、一方で発展途上的な意味合いがあるエリアがあって、その一方では先進国の仲間入りをしてるようなエリアというのがあって、本当に道路一本挟んで、世界が変わってしまっているようなところじゃないですか。その中で、日本の国内では、東南アジアというのはまだまだ日本よりも下だと見ている方がすごく多い中で、実際は、日本自体が途上国に近づいてきちゃってるような、追いつかれてしまっているような現状があるわけですが、その現状を認識していない方もやはり多くいて、日本は豊かですごい国だという思っている状況があるじゃないですか。一方で、海外を知られている方々が見ると違っていて、そうじゃないって思っている。だからこその、「子どもたちがなにで飯を食っていくのかっていうことを考えなくちゃいけない」っていう当時の石原さんの言葉だと思うんですよね。その中で、このコロナで余計に「VUCA」というトレンドワードが出てくるようになって、加速度的に指数関数的に発展してスピード感を持っている社会の中で、求められる能力ってどんどん変わっていってしまってるって現状があると思うんですけれど、社会情勢とか世界をもっとマクロで見た時に、子どもたちが今から求められていく力はどのようなものだとお考えなのか伺いたいです。

石原

子どもたちといった時にどの層を見るかですよね。子ども時代、要するに小学生とか中学生の時代っていうのは誰でも、頑張れば多分東大行けるんじゃないかっていう、ちょっと幻想というかね、そういう感覚を持ちますよね。それがずっと進んでいくと結局、自分たちの実力なり、どれくらい頑張りたいかっていう意欲みたいなことがあって、それから学問的なことに自分が向いてるかどうかっていうような、いろいろな選択も入って進路が分かれてくると思うんですけれど、日本全体でいうと、まだ受験の方に主に一本槍なってますよね、大きくはね。例えば、シンガポールとかイギリスって、意外と早い段階から、要するに大学進学組と専門的な教育を受ける人たちとに分けますよね。それは、社会のリーダー層と社会を支える本当の中核の人たちと、どういうふうに教育を分けていこうかという1つの合理的な考え方があってそうなっているんですけれど、シンガポールがどうなってるかっていうと、ご存じのとおりで、今コロナでちょっと大変ではありますが、経済的には中間層というか、日本でいったら上位層が支配的になっちゃってるわけですよね。だからもう、我々が今シンガポールに行くと、日本よりもものすごく進んでるって事でびっくりしたりするわけですけども、彼らは、教育も非常に合理的に大胆に変えていて、500万人しかいない国ですからね、日本は20倍以上いますから、そう簡単に比べることできないと思いますけれど、子どもたちのに今求められる力、これから求められる力ってのは、「子どもたちの将来としてどういう姿を描くか」ってことに基づいてると思いますね。今の教育の設計っていうのは、その教育を今実際に設計している人たちが、20年後30年後も子どもたちがイキイキと活躍してる姿をどういうものだって、その想像力に依存していると思いますけど、それ自体が想像することがものすごく難しくなっちゃってるというのが、先ほどおっしゃっているまさにVUCAの時代だと思いますが、だったらその求める力はなにか、うまく定義できないんだとするとどうするかっていったら、簡単にいえば「どんな時代になっても対応できる能力」っていうのが求められることになると思うんですけれど、そのエッセンスは何かというとやはり、「その問題の核心に自分で考えて迫っていくことができる、自分で考えて問題の核心に迫っていける思考力で」ですよね、「それを何か考え続ける」っていうのがひとつの能力だと思います。小学校の低学年・中学年の子どもたちでも、すごく差がつくのは、考えることを諦めないでずっとできるという部分で、それができる子はやはり伸びるという非常にわかりやすいことがあるんですが、これは大人でも同じで、1つのことについてずっと考え続けることができるかどうかということは、基礎力としてはすごくあると思います。その力があれば、教科に限らずいろいろなことができるようになると思うし、内容が変わっても自分で考えてやっていくことができると思いますね。 もう1つは、「人の考えに寄り添って人と一緒に協働していく」ということですね。その「人」というのは、インクルーシブってこともあるのかもしれませんし、多様な人と寄り添って一緒にやっていくことができるということもあると思います。そういう基礎的で本質的な力があれば、VUCA時代といっても対応していけるんじゃないかと思いますね。 個別的に、どの教科のどの内容がどういうふうに変わらなければならないかというのはあんまり考えてもしょうがないのかなと思いますね。ただ1つ言えるのはね、技術は大きく関わります。科学的な心理というのは10年と20年で変わっちゃうとかはそんなにないと思いますけど、技術が変わります。技術を取り込むかとか技術をどう活用していくかということについていうと、今の技術に大きく依存してしまうようなことで全部作り込んじゃうのは、やはり危険があるなって思いますね。例えば今、プログラミングっていいますけれど、私が時々お話をさせてもらうタフツ大学のクリス・ロジャース先生なんかは、今後のプログラミングというのは、AIが全部取って代わるとするとですね、AIがプログラムというのは実はできないわけですよね。つまり、内容的にはブラックボックスなので、どういう良質なトレーニングデータを与えて、どういうトレーニングをするかっていうことで、AIを使いこなしていくことができるようになるんですけども、プログラミングじゃなくて、だんだんこれからトレーニングをしていくんじゃないかっていうのが、そのクリス・ロジャース先生の面白い考え方かなとも思います。そうすると今、例えば例を挙げると、ロボットを作りました、で、いろいろな色を識別することを作りましょうと、青いボールと赤いボールと黒いボールを識別できるロボットを作りましょうと、ではここにピンクが入ったらどうなるの?と。センサーで識別できるものみたいにできない、要するに、作ってある仕組みに対応しないものはできないっていうのが今のやり方なんですけれど、そうじゃなくて、ピンクを識別するためには、例えば赤と紫と青といろいろな色の系列を揃えておいて、それを識別させながらトレーニングをさせるというようなAI流のプログラムを賢くする方法を子どもたちが考えるようになるんじゃないかっていうのが、次の、要するにコンピューターとうまく付き合う方法に、だんだんなっていくのではないかということなんですね。なので、今、プログラミング、プログラミングって言っているけれど、では子どもにはスクラッチやらせるだとか、pythonだとかって、直線的に考えるんじゃなくて、「もう少し先にまた全然違うものがある」と思ったら、子どもの時代にはもっと基礎的なこと、例えば、アルゴリズムの理解に繋がるようなことをやっていきましょうとか、基礎に戻っていった方がいいんじゃないかなっていう気はしますね。

AIは人間が賢く育ててあげるもの。
学校教育の中でも、先生はAIと役割を分け、
経験でしか変えられない部分を育てる役割を担ってほしい。

岡本

よく言われるのが、AIに人間の労働が取って代わられるとか、いわゆるシンギュラリティの問題と一緒に人間の雇用を奪って第二の産業革命になるんじゃないかっていうのはよく言われていて、それなら、我が子を技術者に育てていったら食いっぱぐれがないんじゃないかとか、そういう保護者の考え方というのを聞く事が多くあるんですけれど、もし石原さんが保護者の方からそういう質問をされたらどうお答えになりますか?

石原

AIは、取って代わるというよりも、人間が賢く育ててあげなきゃいけない。先ほどのトレーニングの話ですよね。だから、どういうふうにAIを育てるかっていう能力が必ず必要になりますよと、そのためには今やってる算数とかの勉強がやはりすごく役に立つし、要するに、データをどう揃えるかというのは、データの系列をどうするかとか、データそのものどうやって集めてくるかとか、データの無駄がないとか、矛盾がないとかっていうことをどう考えるかっていう、そういうことを自分でやらなきゃいけない。そういう意味では、AIがどこででも見られるような状態になっても、人間の役割は必ずあるよって言いますね。

岡本

石原さんのお話の中でキーワードに出てきた、イギリスとかシンガポールとか、ドイツとかもそうだと思うんですけど、基本的に、大学に行く人間と技術職いわゆる専門職でやっていくという道のターニングポイントが、海外の場合は早い段階でセットしてかなければいけないと。だからこそ、自分のことを考えながら、考える力とか将来を見据えた上で家庭の中で進路ジャッジをしていくっていう事ってすごく多いですよね。その中で「AI」というキーワードが出てきて、世界各国で人間の仕事が奪われちゃうんじゃないかとか、特にAmazonなんかも分かりやすい例だと思うんですけれど、全部オートメーションになって、倉庫で働いていた方がいらなくなってくる、そして管理できるマネージャーの人間だけが残っていくっていうのも出てきている、片方で、それに付随して生まれてくるロボットメンテンナス職が生まれてくると思うので、人の仕事ってなくなりはしないと思うんですけれど、なにか新しいテクノロジーが生まれると、そこから派生して生まれる職業が出てくるってなってきた時に、日本では、今まで学校の中で教わってきた「加工貿易」という言葉も消え始め、資源というものもなく、人間の教育で国益を作っていくんだっていうものも、今どんどん評価が落ちてきていて、GoogleにしてもAppleにしてもそうですけれど、海外がどんどん新しいスタートアップも含めて増えてくる中で、日本が今からどう経済として成り立たせていくのか、人口は減っていく、高齢化が進んでいく、技術がなかなか育たなくなってきているような中で、日本の教育をどう変化させていくのかって、多分皆さんものすごい悩みを持っていると思います。日本の教育も、受験があるからそこに合わせなくちゃいけないっていうことで、この受験制度も変えようかっていうことになってきて、でもなかなか変え切れなかったという部分、そこの矛盾点が日本のここ10年20年30年とバブル崩壊後ずっと続いてる気がするんですが、これからの日本の教育はどう変化していくのか、特に私立の先生達なんかは、どう変えていくことができるかって、公立に比べると比較的ある程度自由にできる余地があると思うんですが、石原さんは考えるのかなというのはお聞きしたいなと思いました。

石原

例えば、先ほどのシンガポール、シンガポールは独立して国になってまだ50年ちょっとですよね、初代首相のリー・クアンユーが教育に対してどういう想いを持ってやったかと言うと、やっぱり人材しかいないと、シンガポールはね。資源も何もないし、人も少ないし、人材しかないということで、最初に「教育」というものをすごく大きなテーマとして国づくりをやりましたよね。その中でも、実業の教育、電気とか機械とか技術者をどう育てるかとか、そういうことは国づくりにとってすごく重要なことだったわけです。今のシンガポールには、アジアでも最高の工学系の大学もあるし、もちろんシンガポール国立大学は、日本の大学のどれと比べてもアジアでは上位になっちゃったっていうようなことがあります。50年ちょっとをかけて、シンガポールはそれを行ってきたというのは、すごいことだなと思うんですけど、やはり日本ももう一度、日本は人材しかないっていう原点に立ち戻っていきたいですね、資源もないしね。シンガポールは何がうまくいったかというと、リー・クアンユーは、国家のデザインと教育のデザインを並行してやったわけですよね。こういう国家になりたいっていうことを、ビジョンを掲げてやっていった。日本は、日本としてどうなるかっていうビジョンが見せることができる人たちが全然いない中で、ちょっと言葉が悪いですが、場当たり的に映ってしまう。その中で、教育だけに対して、どういう人材が必要かなんて、そのデザインもなかなかしづらいと思うんですよね。ただ、今、与えられている環境とかツールを使って何かもう少し子どもたちの基礎力を高めていくような教育ができないかって考えた場合はですね、ちょっと非現実的な話になっちゃうかもしれないけれど、大きなことで言うと、学校のあり方っていうのは変えていかないといけないんじゃないかなって思いますね。それはどういうことかっていうと、先生方がすごく苦労されている、時間も労力もものすごく多く使われて、感情的にもすごく疲弊されながらやってますよね。すごいことだなと思うんですけども、それをずっと続けて極限まで、もっともっと効率を、もっと効果的にって言っても、これはなかなか難しいんじゃないかなって思うわけですよ。先生方だって人間ですしね。その時に、生徒全員にタブレットとかパソコン渡すようになって、これの使い方というのも、もっと本当はあるでしょうと、外にいる人間が無責任に言ってはいけないのかもしれませんが、そういうふうに思うわけですよ。というのは、「個別最適過学習」って昔からいわれますけど、いろいろな能力とか発達段階の子どもたちが1つの教室にいる中で、先生1人が例えば25人とか30人の子どもたちを個別最適化で見られるかって言ったら、これは大変難しいことじゃないかなとは思うわけです。もちろんできる方もいるのかもしれないけれど。タブレットとかパソコンとか、さっき出てた AI ですよね、これを組み合わせていくと、それぞれの進度に合わせた教育のコンテンツの提示と、それから評価ですよね、相手が例えばAIだったら、同じことを何回聞いてもいいわけじゃないですか、子どもの方も安心して聞けるし、先生が同じ質問を何回も何回も聞かれたら、やはりちょっと感情的に動くと思うんですよね、そういう事にタブレットとかパソコンが生かせれば、お互いハッピーなんじゃないかなと思いますよね。 では先生達の役割は?というと、実はもっと大きな仕事があって、さっきの基礎力、自分で考え続けるにはどうするかとか、人と一緒にやるためにはどうするかとかっていうような、経験でしか変えることができないようなことを先生方がやっていただくというように、役割が、先生とAIに分かれてくるんじゃないかなと思うんです。学校は、どうしても集合的に人がやらないと学べないようなこと、例えばスポーツとか、何か協働で活動して成果を出すようなもの、それは他の子どもたちとどうやって付き合ってったらいいかとか、どういうふうにしたら揉めた時に解決できるかとか、そういう社会的なスキルですよね、それを学ぶ場は学校が一番いいんじゃないかと思うんですけど、授業の中で、教室の中で、個別な教科を学ぶために、今のやり方が本当に最適というか一番いいのかなって思うと、機械とかAIでもっともっとその子どもにとっても先生にとってもハッピーなあり方ってのはあるんじゃないかなというふうに思いますね。それから、学校以外の活動というのもやはり子どもたちの時間の中でも大事じゃないかなと思います。それはそれぞれの子どもたちの興味関心っていうのは当然違いますからね、星をいっぱい見て夜空のことをもっと理解したい子どももいるでしょうし、音楽が大好きとかね、ロボットやりたいとか、そういうことで個別の子どもたちの興味を満たしてあげるような学校外の活動もすごく大事になってるんじゃないかなと思いますね。

 

岡本

今 NUS(シンガポール国立大学)などのシンガポールの話も出てきたんですけど、世界中から見ると、東大という日本の中だけではいわゆるトップブランドでもあったとしても、世界の中から見ると東大の知名度は当然あるのはありますけど、他にももっと選択肢が多い時代になってきているわけで、そのこと自体も、なかなか日本国内にいると分からない方も多くて、どうしても学校だと、東大に何名合格するのがステータスシンボルにもなっちゃってるっていうのが、学校の教育の中にはすごくあって、もちろんそれを懐疑的に思ってる方もすごく増えてきて、そうなってきた時に、軽井沢で風越学園なんかが新しいもので出てきたり、イエナプランとして大日向が出てきたり、どんどん増えてきているのは、多分その今の社会の現状、日本が置かれている状況が分かっている方々が、じゃあ自分がアクションを起こしてみるよっていうことで出てきているのだと思うのですが、そういう方が増えてきているというのは、僕としてもすごくいいなと感じていて、たぶん石原さんも同じ感覚をお持ちだと思うんですよね。結果としてそれがいいか悪いかは10年後20年後に時代が証明してくれることにはなってくると思うんですけれど、日本国内においても、海外へのアクセスキーを持てるような学校とか支援できるようなところが、20年前に比べると明らかに増えてきているというのがすごく、唯一の希望といったら変なんですけれど、あるかなっていうのと、あともう1つ、おそらくこの対談記事を読まれている学校の先生方の中にも、「分かる、そうなんだよ、石原さんその通りなんだよ、アダプティブラーニングもやりたい。」と思っている方はいらして、ただ、「でも、どうやって最初のきっかけをスタートしていいのかがわからない」っていう方もすごくいらっしゃると思っていまして、例えば、石原さんが学校の中の決定権を持った時に、第一歩のこの改善アクションとしてやるとしたら、どういうことを最初の第一歩ってのはやりたいのかなって、今聞いていて思いました。難しい質問ですけど…。

石原

なるほど。例えば現実にあったとしてね、僕が校長として赴任しますと、私立学校ですごく大ナタ振るいます、みたいな状況だったとして、何ができるか。でも結局、現状の枠を、例えば1年で全部変えるとかっていうのはなかなかできないわけですよね。どこを変えるかというと、「大事なものをどこに注目するか」ということは先にやった方がよいと思うので、例えば、中学生対象だったとして、この中で先ほど挙げた2つ、「問題の核心について考える続ける能力をどうやったら伸ばせるか」、それから「人と一緒にどうやって問題解決ができるか」という2つを現実に据えるような活動を何か1つまずは手始めとしてやってみたいですね。そこに注力することが子どもにとって本当に意味があるというふうに教員の皆さんが理解をしてくれたら、じゃあそこに先生たちの時間をより多く使うためには教科の教育の時間をどう変えていったらいいかという、先生たちそれぞれに問題意識を持ってもらえるような、最初にそういう活動をしたらいいのかなと思いますね。具体的なものは何かというと、例えば今、私は柏市の方で高校生対象のプログラミング講座をやっているんですけど、全8回の連続講座でやっています。これはプログラミングを勉強しましょうっていうのではなくて、リアルに自分の身の回りの人たちの何かの問題を解決するために、どんなスマホのアプリを作ったらいいかっていうことを考えてもらうための講座なんですね。その内容としては、最初に「システム思考」っていうのもあるんですけど、そういうものを学んでもらって、問題の分析の仕方、視点はどのようにとるかっていうことと、その問題解決の急所をどのように導くかという、これは「システム思考」という考え方の中で、いろんな道具があります。その道具に慣れてもらうっていうところからスタートして、アプリをどう作るかっていう技術な話、それからデザイン思考の話、これも要するに、困っている人たちに寄り添って、そういう視点でいろいろな問題解決をやることが最終的にアウトプットにつながるということですね。そういうことをやりながら、最終成果としてのスマホアプリを作るということをやっています。それ自体が一つのプロジェクト的な活動になると思うんですね。こういうものをやればいいのかなと思います。

岡本

具体的に何かこう、今みたいな一つのアプローチの仕方、さきほどのリー・クアンユーではないですが、国家デザインとか教育デザインっていう、今の短い時間の中でやれるものと、ある程度中長期的なスパンの中でやっていくデザインを考えた上で、いくらリーダーが言ったとしても、実際に動くメンバーが同じベクトルを向いて動き続けないと、なかなか学校というものを、教育というものを変革させることってすごく難しいと思うので、同じ熱量を持って動ける人間が増えてこないといけない。そういう意味で、「レゴ®シリアスプレイ®」なんかはすごく、ベクトルの統一とか潜在的に考えているものを可視化させていくというすごく良いツールだと僕も思っているんですよね。片方で、その中で、今後指導者として、同じようにベクトルを統一するっていう事とか、デザインをみんなで考えながら少し短いスパンでできるものと、長いスパンでやっていくことというのを考えながら動かなければいけないと思うんですが、先ほどの石原さんのおっしゃったことと、かぶってしまうところがありますが、今後の指導者が求められているものを考えていった時に、中間管理職の立場と、当たり前ですけどもっと上の立場の方、逆いうと、もっと現場レベルで生徒達保護者と戦っている方などたくさんいる中で、それぞれ一緒に考えるは難しいと思います。ただ、その中でも、指導者、いわゆる学校の教育の現場とかに立っている方々が、今から求められていく視点や行動、自分は現場レベルでやりたいんだと言っても上が岩盤として立ち塞がるという状態もあると思いますので、どういうふうに視点と行動を持って行ったらいいのかというのをアドバイスいただきたいなと思います。

石原

まず、視点ということでいうと、僕は、学校の先生方は今すごく忙しいっていうことは、いろいろなところで言われるし、忙しすぎるっていうことも言われますが、これはやはり仕事を抱えすぎているっていう事がありますよね。これはしくみの問題でもあるけれども、この中で優先順位をつけるかとか、自分の仕事の中の取捨選択みたいなことの考えをまず持たないといけないと思いますよね。これは何をやっている人でもそうですけど、オーバーフローしそうなときには、優先順位をつけて、取捨選択ができる思考をしないといけない。これをどういうふうに、実際に何かを小さくするとか、捨てるとかっていう事やるかっていうと、これは一人でできないこともあるので、そういうものは組織を巻き込んでやっていく必要がある。ということは要するに、組織の巻き込み、そして合意をどのように作っていくかという社会的なスキルですね、これは持っておかないといけないと思いますよね。しかしそれは、1つの文化の中に全員が浸ってしまっていると、なかなか難しい部分もあると思います。例えばね、1つの学校の中で、ある考え方が支配的になっちゃって、それが日常になっちゃって抜け出すことなかなか難しいというね。そういう時はちょっと非日常的な機会を持って、みんなで何が大事かっていうことを考える、そういう機会を設けることがすごく重要になってくると思いますね。ちょっと頭を切り替えながら、今自分たちがやっていることの中で、何が本当に大事で、何をもっと大事にしなきゃいけないかとか、何は少し横に置いておけるとかっていうようなことを整理して、それを現実に実行に移す。そのためには一人ひとりが考えて、組織としての合意形成をするための社会的スキルを、個人としても組織としても持つということになるんじゃないですかね。

技術と協働をつなぐための神経科学・脳科学の知識、
そして、「コンピューテーション」を
早いうちから学ぶことはとても有意義。

岡本

実際に、今、「レゴ®シリアスプレイ®」とかを自分自身でも体験している身としては、学校の先生にぜひ受けて欲しいなっていうのがあってですね、何かって言うと、みんなその度合いが違ったりする事ってのがある中で、どのような視点を持って思考しているのか、どんな行動をしているのかというのを可視化させる時間を取れるといいと思うんですよね。前半戦でも石原さんがお話しされていたように、子どもだちが忙しくいろいろとやってるって言うものと同じくらい、学校の先生達も大人も忙しいので、一度立ち止まってデザインを考えてみるとかっていうこと自体が、今どうしても学校だけじゃなく民間企業も同じで、ないと思うんですよね。その辺りが子どもたちのためになるのであれば、是非落ち着いて考える時間を取ってもらいたいなというのはすごく僕も感じています。 そして、最後にひとつ、個人的にお聞きしたいこと、学校の先生達も同じだとは思っているんですけど、手段と目的の問題は少し置いておいたとして、子どもたちになにかテクノロジー教育を今から推進していきたいとか、学校でいうと総合探究というものが入ってく中で、答えがないものに対して、どのようにアプローチをしていくか、いわゆる実社会とのつながりっていうものが今求められている教育の現場のキーワードだと思っています。その中で、探究というものをやっていると、どうしても最近の風潮というのは、調べに行って、それをまとめて、プレゼンテーションして話して、終わっていくっていう、どちらかというとまとめるもの、キュレーションとプレゼンテーションっていわれるものに集約されていっているように見えるんですね。確かに、技術としては今までにない教育というかもしれませんけど、最初にこれも冒頭で言った「気づきを得てから解決して行動にしていく」という、今から社会のキーワードになっていく、それは「一人じゃなく協働で動いていく」ってものがキーワードだと思うんですけど、そこに対して、どうしても今、学校の先生達だけじゃなく、教育の現場で、どう探究を進めていくのか、どうテクノロジーと交わらせていくのか、その辺りがすごくキーワードとして次のフェーズにに来るんじゃないかなっていうのは私もずっと思ってるんですけど、最後のメッセージを送っていただくことは可能ですか。

石原

メッセージになるかは分からないですけれどね、今おっしゃったこと、テクノロジーと例えばその協働って一緒に働くことですよね、そういうことがどういう風につながるかっていうことを考える上で、僕は先ほどもちょっと言ったかもしれませんけれど、神経科学とか脳科学ですよね、これの基礎的なことを教育者とか子どもたちにも教えてあげるというのは、すごくいいことじゃないかと思います。つまり、我々の気分とか情動、感情ですよね、こういうものが、何によって左右されるのか、どういう場面でどういう風にこれが働くのかってのは、ある程度今は分かってるわけですよね。さっきのスマホの問題でも、スマホに自分の時間を支配されないためにはどうしたらいいかっていうことは、ある程度現実的な方法があるわけです。例えば、スウェーデンでは、先ほどの「スマホ脳」という本を書いた、アンデシュ・ハンセンっていう人の「脳との付き合い方」という本を、学校が希望すれば無料で配りますよというのを国でやっていて、何十万分か学校に入ったらしいんですよね。要するに、脳との付き合い方が分かると、もう少しスマートに勉強もできるし、人との付き合いっていうのも、どうして自分の気持ちが今動いたのかっていう、ある程度の理解を持つっていうのは、自分の感情を抑制したりとか行動抑制したりする意味でもすごく意味があると思うので、神経科学と脳科学の基礎的な知識をみんなが持つっていうのは、技術とそれから協働、ですよね、人とどうやるかってことをつなぐ1つの橋になるのではないかなと思います。 それからもう1個キーワードがあるかなと思っているのは、2021年に、プリンストン大学の、真鍋淑郎先生が、ノーベル物理学賞を受賞されましたよね、この研究はすごく画期的だといろいろなところで言われますけれども、何が画期的かというと、物理の理論でもあるんだけども、要するに、気象力学というね、気象を力学的に捉えるっていうものですが、何が一番大きいかというと「コンピューテーション」なんですよ。気候変動をモデル化して「大気海洋結合モデル」という、大気と海洋の動きを両方とも結合してモデル化したってことなんですが、これは、立てた問題を計算で解くっていう考え方ですね。今は生物学にしろ、工学しろ、純粋科学にしろ、全部その裏にコンピューテーションがあって、立てた問題をコンピューターで解けるようにモデル化して、それをスーパーコンピューターとかいろいろ使って、そのモデルの動きを見ながら結論に導いてくっていう研究のスタイルなので、後ろに全部コンピューテーションがあるんですよ。そのコンピューテーションをどうやって教えることができるのかというのが、すなわち「コンピューテーショナル・シンキング(計算論的思考)」なんです。これは、子どもたちがその後どういう分野に行くにしろ、「コンピューテーション」という考えを早めに教えてあげるというのは、1つ、自分の使っている問題を明確にするうえですごく役に立つと思うし、それから、協働、一緒に動くという中でも、コンピューテーションというのが、みんな基礎的な知識としてあれば、そこでどうやって一緒にやろうかということの新しいやり方を示してくれるような可能性もあるんじゃないかなというふうに思いますね。

岡本

本当に、日本の教育を一歩、二歩、先に進めていかないと、また10年後20年後に大変になってくるっていうのは皆さん何となく分かっているものだと思うので、その中で、何か一石を投じておきたいっていう方々がすごく多いと思いますから、今日のこのインタビューの記事を読んでいただいて、そのヒントにしていただきながら、先生方が次のネクストアクションを踏んでいけるようにしていってもらいたいなと、聞いていて強く思いました。 石原さんの話を伺っていると、学校の先生も新しい情報のアップデートを時代と共にしていける時間も取れるようにしていくことが、全体的なスタックしている部分の解決の鍵かなと今日は思って、そこに行くために何か次のアクションをヒントとして、これ面白そうだから一回取り入れてみようかとなってくれるとすごく嬉しいなと強く思います。 ぜひまたこの続きとかもまた第二弾ということでできればと思いますのでよろしくお願いいたします。 今日は石原さんにインタビューさせていただきましたありがとうございました。

Today’s Expert

石原 正雄 ISHIHARA Masao
1960年愛知県生まれ 国際基督教大学教養学部卒業。ボストン大学経営大学院修士課程修了 経営情報システム専攻。 1985年よりCSKグループで自然言語処理研究開発などに従事した後、経営企画部門で海外投資案件の調査、買収した米国企業の国内、海外オフィスの業務支援など担当。 1996年インターリーフジャパン(株)代表取締役、2015年より(株)ロバート・ラスムセン・アンド・アソシエイツにて、組織課題を解決するための会議メソッド「レゴ®シリアス®プレイ」の研究開発と実践および MIT App Inventorを活用した計算論的実践を支援する活動に従事。 MIT認定 教育モバイルコンピューティングマスタートレーナー、レゴ®シリアス®プレイマスタートレーナー協会認定 ファシリテータ養成トレーナー。 著書に「戦略を形にする思考術」徳間書店(共著)など。

Interviewer

岡本 弘毅 OKAMOTO Koki

教育のソリューションカンパニー、株式会社エデュソル 代表取締役。
特定非営利活動法人子ども大学水戸 理事長。
世界に羽ばたく「倭僑」の育成のため、従来の教育だけではなく、STEAM教育やSDG’s教育(ESD)、グローバル教育を中心に、3歳から社会人までの幅広い年齢にあわせた、様々な教育プログラムを提供している。また、子どものための大学を設立し、累計10,000人を超える学びの場を提供している。
2020年、株式会社電通、株式会社TBSホールディングスとともに、JVとして株式会社スコップを設立、実践的想像力を育むオンラインスクールSCHOP SCHOOLを開校。